10兆円ファンドをひっさげ世界の投資関係者が注目するソフトバンクグループの孫正義会長兼社長。派手なM&A(合併・買収)を裏方の立場から支えてきた知る人ぞ知る人物がいた。その男は2016年にソフトバンクを去ったが、わずか半年で復帰。帰ってきた孫氏の「M&A番」が目指すのは、未来の人工知能(AI)のスター誕生だ。

■日本の人材を育てたい
 17年4月、東京・有楽町。孫氏が毎年開く若者向け講演会の直前。仁木勝雅氏(50)が姿を現すと、孫氏はニヤリと笑って告げた。「ウエルカムバック。やっぱり戻って良かっただろう」

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仁木勝雅氏 2006年、ソフトバンクで英ボーダフォン日本法人買収に携わる。08〜09年頃から16人のM&Aチームを率いる。16年、ソフトバンクを退職しイズミへ。17年に復帰、ディープコア社長に就任。

 10年以上にわたって孫氏のM&A戦略を支え続けた仁木氏は、16年夏に家庭の事情で実家がある広島市に本拠を置くイズミに転じていた。地元流通大手の会長室長として新組織の立ち上げに動いたが、「ソフトバンクで慣れていたスピード感とのギャップが大きかった」と言う。

 仁木氏は「ある程度は覚悟していた」と言うが、孫氏のすぐ隣で世界のIT(情報技術)産業を揺さぶるビッグディールを休みなく仕掛けてきた高揚感とはかけ離れた場所に来たことを、すぐに実感した。

 そんな仁木氏の思いを見透かしたように誘ったのが青野史寛氏だった。青野氏の肩書は常任執行役員(当時)。グループ内の管理部門を託される孫氏の側近だ。「面白いプロジェクトがあるんだけど、興味ない?」。青野氏が打ち明けたのは起業家の育成事業だった。分野はAI。さらに国内の人材育成に集中すると言う。

 実は、AIの人材育成事業は仁木氏がソフトバンクを離れる直前に構想していたことだった。普段からグループ内に目を光らせる青野氏も知らないはずがない。孫氏のM&A番を長く務めた仁木氏には、胸に秘めた葛藤があった。

 ソフトバンクは05年に英ケーブル・アンド・ワイヤレス(C&W)日本法人を買収した。当時、C&W経営管理部長として売却交渉にあたったのが仁木氏だった。

 ソフトバンクに転じるとその手腕を見込まれてM&Aを担当する投資企画室に抜てきされる。「売り手」から「買い手」になったわけだ。06年に総額2兆円を投じた英ボーダフォン日本法人買収から本格的にM&Aに関わり、社内に設置された「M&Aチーム」のトップとして頭角を現すようになった。

>>2 へ続く

(スレ立て依頼から)
2018/6/6 11:30
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31401420V00C18A6000000/