社員に禁煙を促すため、喫煙所を休憩スペースに変えて全面禁煙にしたり、採用条件にしたりする企業の取り組みが進んでいる。健康被害を防ぎ、仕事の効率化を促す狙いだ。発想を変え、たばこを吸わない人に有給休暇を与える企業もある。

「効率的働き方に」

 東京都内の損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険本社の一室。白を基調にした清潔感のある休憩スペースで、社員がくつろぐ。昨年まで喫煙室だった雰囲気はない。

 同社は昨年8月、全国の営業拠点を含めた全社を終日禁煙にした。「顧客の健康づくりへの貢献を目指す企業として、社員の健康は不可欠」と判断、禁煙治療費の一部を補助する。

 「喫煙室があれば吸ってしまう。いずれやめる気はあり、背中を押されたように感じた」

 社員の矢野允規さん(31)は、完全禁煙化を控えた昨年5月、10年間吸い続けたたばこをきっぱりとやめた。1日に10回以上、喫煙室に通う日もあった。気分転換はできたが、頻繁に通うと仕事の中断にもなる。「効率的な働き方ができ、帰宅時間が早くなった」

場所・時間、不平等?

 コンビニ大手のローソンも昨年から、本社と地域の事業所を終日禁煙とした。ヤフーは、平成32年度中に全拠点で喫煙室をなくす予定だ。

 約1万社が回答した帝国データバンクの調査によると、換気をした喫煙所などがある「完全分煙」が56%で最多。「全面禁煙」は22%で、何らかの形で喫煙を制限している企業は92%に上った。

 喫煙者の割合も、50%近くだった半世紀前から大幅に低下し、29年は18%に。32年の東京五輪・パラリンピックを控え、受動喫煙防止の強化が強く叫ばれるが、職場での意見はさまざまだ。喫煙者が「分煙を徹底すれば迷惑にならない」と主張すれば、吸わない人は「吸う人だけに部屋と休憩時間があるのは不公平だ」と反論する。

「スモ休」制度で

 「たばこを吸いますか? 私たちは喫煙者を採用しておりません」。ホテルや旅館を運営する「星野リゾート」(長野県軽井沢町)は、禁煙を職員の採用条件とした。入社時にたばこを断つと約束できないと、選考に臨むことはできない。担当者は「社員をたばこの健康被害から守る責任がある。喫煙所のスペースがあるなら、顧客のために活用すべきだ」と話す。

一方、吸わない社員を評価する“逆転の発想”も。ウェブマーケティング事業のピアラ(東京)は、昨年、喫煙しない社員に年6日間の有給を与える「スモ休」制度を始めた。

 「たばこを吸いに席を離れる人と、吸わない人では労働時間に差がある」。社長に寄せられた社員の意見がきっかけだった。自発的にたばこをやめる社員を増やす狙いだ。

 同社の榎冴絵さん(24)はこの制度を利用して年末年始の休暇を増やした。「たばこ休憩でリフレッシュする人をうらやましいと思ったことがあるが、これなら納得できる」と話した。
http://www.sankei.com/life/news/180327/lif1803270006-n1.html