「孔子曰、悪似而非者」(孔子曰く、似而(にて)非なるものを悪(にく)む)

 これは孔子が、「本物に見せかけていながら、質の低い文化や商品そして為政者」を許さないことを孟子が解説した中国故事だ。

 論語では、穀物の苗に似た莠(はぐさ:ネコジャラシ)が畑を荒らすことや、中間色の紫が人気になることで高貴な朱色の地位を奪うことを孔子が問題視していたことが記されている。日本語での「似而非(えせ)」という言葉の語源だ。

 現在「模倣品大国」「違法コピー商品の発生源」として世界から問題視されている中国だが、本来は孔子の言葉にみられるような価値観があったはずだ。

 世界の模倣品・海賊版の貿易被害は年間4600億ドル(約46兆円:2013年)にも上る。経済協力開発機構(OECD)の最新調査によれば、その発生源の大半が中国だ。2016年の日本税関が輸入差し止めをした違法コピー製品や海賊版2万6034件のうち、実にその91.9%が中国(香港を除く)から輸出されたものだった。

 被害の大半は「商標権」の侵害だ。

 例えば、日本の人気スポーツブランド「アシックス(ASICS)」は中国で多くの商標侵害にあっている。

他にも、ホンダ(HONDA)のオートバイに似たデザインの「HONTO」など、よく見れば真贋が判別ついたとしても消費者に誤認させる模倣品が中国から多く生み出されている。

 また、海外企業の商標を先んじて中国企業が現地で登録してしまうこともあり、日本のブランドが被害者となるケースも多く見られる。

「特許権」侵害は訴えても「商標権」侵害は訴えない日本
 ここで気になるデータがある。知的財産の侵害に対する裁判の数だ。

 中国における知財侵害の民事訴訟の原告を国別に数えたのが以下のグラフだ。
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スマートフォンや自動車関連など多くの企業が活躍するアメリカや、アパレルなど高い価値のブランド製品を展開するフランスなど、中国で知財侵害の被害を受けている国々が名を連ねるこのランキング。ある一国を除き、原告となっている数の順位は「特許権」「商標権」ともほぼ同じとなっている。

 その例外の国が、日本だ。

 日本企業は「特許権」の侵害には多くの裁判を起こすのに、「商標権」の侵害にはあまり裁判を起こしていない。

 日本企業は、商標権については訴訟による損害賠償を重視しておらず和解を優先しているとされるが……つまるところ、「ブランドを侵害されても、怒っていない」とも捉えられる。中国の知的財産政策の関係者は、日本企業による訴訟の少なさが模倣品業者を増長させているとも言っている。

 「技術は守るが、ブランドは守らない」───これが日本企業の現状だ。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/070600051/022500008/?P=1