2016.1.4
MRJ受注計画が納入延期と米パイロット問題で大ピンチ


三菱航空機が手掛けるMRJの商業化スケジュールが延期された。2017年4〜6月としていた1号機の納入時期を18年後半へ変更する。
当初計画から5年も遅れることになる。
延期の原因は、型式証明の取得プロセスの遅れにある。型式証明とは、航空当局が機体の安全性能を保証するお墨付きのことだ。
「今度は誰が責任を取らされるのか──」。延期を受けて、開発担当の三菱航空機、製造担当の重工航空機部門の幹部たちは
戦々恐々としている。名古屋周辺に拠点を置くこれらの航空機部隊は、社内では「名航(めいこう)」と呼ばれる名門部門。
今、重工本社と名航との不協和音が表面化しつつある。
すでに前例がある。15年4月、度重なる遅延に業を煮やした宮永俊一・三菱重工社長は三菱航空機社長に原動機営業出身の
森本浩通氏を据えた。「一貫して航空機畑を歩んだ川井昭陽前社長を更迭、門外漢の森本氏を登板させることで、名航部隊を破壊しようとした」(重工幹部)のである。
だからこそ、名航幹部は粛清を恐れる。「犯人捜しをしている暇などない。炎上している客船事業の二の舞いだ」(重工関係者)と嘆く。
別の重工関係者は、「本当に必要なのは認証作業に通じたプロのエンジニア。約200人は足りない」と危機感を強める。
確かに、事態は深刻だ。MRJのライバル、ブラジルのエンブラエルに対する優位性がなくなりつつある。
「エンブラとの性能格差は20%から5%程度へと縮まった」(重工幹部)。
MRJは407機を受注済みだが、うち半分は仮予約で「エンブラと両てんびんをかけられており」(同)、キャンセルリスクが高まっている。
その上、引き渡し時期の遅延で、違約金が発生するリスクすらある。

スコープクローズの打撃
延期とは別次元の問題も発生している。MRJは米リージョナル航空(スカイウエスト、トランスステーツ)から300機の受注があるが、
その計画に狂いが生じそうな雲行きなのだ。この2社は米大手のデルタ航空やユナイテッド航空の委託運航を行っている。
大手エアラインとパイロット組合との労働協約の中に設けられた条項(スコープクローズ)により、
大手エアラインのパイロットの職を奪うリージョナル航空は「70席を超える航空機を使用しない」などの取り決めがある。
「90席クラスから参入するMRJの生産計画では引き渡しが間に合わないかもしれない」(金融関係者)のだ。
まさしく、泣きっ面に蜂。MRJ事業の20年度の黒字化は遠のき、資金計画の見直しは必至だ。
「ボーイング向け航空機ビジネスが好調なうちに、減損や三菱航空機の資本構成の変更なども視野に入れるべき」(重工幹部)との
声が上がっている。