安倍政権が生産性向上のため「生産性革命」を旗印に掲げる中、1990年代には世界一だった製造業の労働生産性が過去最低の14位に再び落ち込んでいるそうです。

日銀の緩和策による円安がドルベースで見た労働生産性を押し下げているのが原因というものの、日本の労働生産性が先進国の中では随分低いことが改めて浮き彫りになっています。

12月20日に発表された公益財団法人・日本生産性本部の「労働生産性の国際比較 2017 年版」から分かりました。とりあえず主な数字を拾ってみましょう。

1時間当たり労働生産性4,694円、20位
経済協力開発機構(OECD)の2016年データに基づく日本の1時間当たりの労働生産性は購買力平価(PPP)換算で46ドル(4,694円)です。アメリカ(69.6ドル)の3分の2程度しかなく、OECD加盟35カ国中20 位でした。先進7カ国(G7)の中では1970年以降、ずっと最下位を低迷しています。

購買力平価とは物価水準などを考慮した実質的な購買力による各国通貨の交換レート。日本とアメリカで全く同じマクドナルドのハンバーガーを購入した場合、アメリカで1ドル、日本で100円の値段ならハンバーガーの購買力平価は1ドル=100円ということです。

1人当たり労働生産性は834万円、21位
16年の就業者1人当たりの労働生産性は8万1,777 ドル(834万円)で21位。英国(8万8,427ドル)やカナダ(8万8,359ドル)を下回っています。1990年にはアメリカの4分の3に近い水準でしたが、2010年代には3分の2程度に落ち込みました。

製造業の労働生産性1,066万円、14 位で過去最低タイ
1995年と2000年には世界一だった日本の製造業の労働生産性水準(就業者1人当たり)は為替レート換算で9万5,063ドル(1,066万円)。1995年以降では過去最低だった2008年と2014年と同じ14位に再び落ち込みました。アメリカ(13万9,686ドル)の7割程度の水準にとどまっています。

中国や韓国との低価格競争に巻き込まれた日本の製造業の労働生産性水準は2000年代に入って大きく後退してしまいました。

大胆な金融緩和と財政出動を組み合わせた安倍晋三首相の経済政策アベノミクスのおかげで名目国内総生産(GDP)は拡大、完全失業率は事実上の完全雇用を示すと言われる3%を割り込んでいます。

電通の新入社員、高橋まつりさん(当時24歳)の過労自殺事件で長時間労働を見直す動きも出始めました。がしかし、女性やお年寄りが労働市場に参入したことで非正規雇用がさらに増え、全体で見た場合、賃金を押し下げていることが日本の労働生産性が低迷している大きな理由です。

「高賃金」を実現する決め手
日本が「低賃金・長時間労働・低付加価値」のスパイラルから抜け出し「高賃金・短時間労働・高付加価値」を実現する決め手が、ロボットや人工知能(AI)による無人化、効率化であることは論をまちません。

日本とアメリカで産業別の1時間当たりの生産性を比べると、日本の生産性が高いのは化学と機械だけです。サービス産業の中で金融はアメリカの48%、卸売・小売業は38.4%、飲食・宿泊は34%です。

こうした分野にロボットやAIを導入して労働生産性を上げていくことが賃金を押し上げることになります。

しかし、イギリスの中道左派系シンクタンク、公共政策研究所(IPPR)は調査報告書「オートメーションを上手に使いこなせ デジタル時代の雇用・格差・倫理」の中で次のような警鐘を鳴らしています。

ロボット・AI化がすべての仕事を奪うわけではありませんが、産業構造を大きく変えていきます。オートメーション化が賃金格差をさらに広げる前に政府が対策を講じなければならないというのです。

ロボット・AI化によるオートメーションは2030年までにイギリスの生産性を0.8〜1.4%押し上げ、GDPも10%増やすとIPPRは予測しています。これがロボット・AI化がもたらすプラスの側面です。
以下ソース
https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20171228-00079844/