約800万人がこの国から姿を消す――。人口が減少し、空き家が増加するなかでなお過剰に作られる住宅。ほとんど価値のなくなった団塊の世代の持ち家は、相続で一気に「負動産」と化していく。

マイホームという夢の終わり
2028年ごろ、団塊の世代は80歳前後となり、その子供世代となる「団塊ジュニア」は50代半ばから後半、切実に老後の生活を考えなければならない時期に差しかかる。

生活していくのに十分な年金がもらえるのか、老後の医療費や介護保険はしっかり支払われるのか。

社会保障だけでなく、日本経済の先行き自体も不透明で、定年まで会社にいられるかもわからない――そのような世代に追い打ちをかけるように訪れるのが「相続」に関する問題だ。

「内閣府による平成25年版『高齢社会白書』によれば、団塊の世代の持ち家率は86.2%と非常に高い。1947年から1949年までの3年間の出生数が806万人であることを考えると、これから日本は数百万世帯の規模で子が親の資産を継ぐ『大相続時代』に突入するのです」(財営コンサルティング代表の山崎隆氏)

現金や保険・証券に加えて、宝石や自動車といった高額な品物など、相続の対象は多岐にわたるが、これまで我々は、親に借金でもない限り、相続すれば基本的にプラスになるとの思いで資産を親族から受け継いできた。

日本の場合、ほとんどの相続でもっとも高額なのが「不動産」である。

高度経済成長期からバブルまでを経験した団塊の世代は、みな「住宅すごろく」をそれぞれに歩んできた。単身のアパートからスタートし、庭付き一戸建てを手に入れることがひとつの「あがり」だった。

念願のマイホームから子供たちが巣立っていくのを見送り、妻と老後を過ごす。やがて結婚した子供たちが舞い戻り、自分の面倒を見てくれることを心のどこかで期待する。

安定した生活を享受するために、なかば「右にならえ」で手にした団塊の世代の夢も、いまとなってはもはや幻想にすぎなくなってしまった。

というのも、2028年には、相続をすることによって団塊ジュニアが資産を手に入れるどころか、むしろ大きな出費を迫られることが当たり前になるからだ。その最大の原因が、ほかならぬ不動産価格の下落にある。

「青山や麻布といった都心の超一等地や大都市の一部を除き、今後不動産価格は全国的に下落していきます。人口は'08年をピークに減少し続けているにもかかわらず、それを超える住宅が今後も供給され続ける、というミスマッチが不動産業界で起こっていることが一因です。

住宅の供給過剰が進むと、価格の下落だけでなく空き家物件の増加にもつながることになります」(不動産コンサルタント・さくら事務所会長の長嶋修氏)

住宅価格の下落とともに、団塊の世代が住んでいた大量の住宅が、彼らの死によって無用の長物と化す。

数万人規模で人口が減少した地域のインフラは劣化し、産業も衰退する。やがて若者は棲みつかなくなり、デベロッパーも再開発に消極的になる。こうして、不動産価格は輪をかけて下がっていくのだ。

相続する家の価格は、その土地の路線価を基準に査定される。現在、都市部の不動産価格はわずかに上昇傾向にあるが、市場がひとたび失速して物件の売値が下がれば、相続税査定の評価額と売値とのあいだで差が大きく出て、赤字の相続になるケースが増える。

不動産を売らずにそのままにしておけば、相続税に加えて毎年の固定資産税や維持費が重くのしかかってくる。住んでいるわけではないにもかかわらず、である。すなわち、相続するだけで損をする「負動産」が、団塊の世代の高齢化をターニングポイントとして急増していくのだ。

団塊の世代から相続を受けることになる団塊ジュニアは、すでに都市部に住宅を所有していることが多い。両親の家が居住地から離れたところにあれば、その管理までなかなか手が回らないだろう。

建物は放っておけばすぐに劣化し、人に貸すことも売ることもできなくなってしまう。したがって相続人は「すぐに売るか、取り壊して更地にするか」の二択を迫られることになる。

もちろん上物を取り壊すことなく即座に買い手がつけばいいが、築数十年を過ぎているであろう団塊世代の住宅では、そううまくいくとは限らない。とはいえ、家を解体するにも150万〜300万円といった高額な費用の負担が必要だ。
以下ソース
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53323