B to B、あるいはB to Cビジネスにかかわらず、日本企業の多くは、高価格帯すなわちハイエンド系に重点を置く傾向がある。2000年以前に遡って電機業界を俯瞰してみると、薄型テレビ、液晶パネル、リチウムイオン電池、電池関連部材、試験機器など、多くの領域で日本の存在感は非常に大きかった。

 このような時代には、日本勢が本来得意とするハイエンド系で競争力が大きく、その事業をベースにミドルレンジゾーンの商品や製品をも引っ張り、堅調な業績をあげてきた。それはすなわち、中国勢はもちろんのこと、韓国勢や台湾勢に対しても製品競争力や技術競争力で大きな差を付けていたことが背景になっていた。

 ところが2000年を過ぎると、韓国勢が技術力をじわじわと上げてきて、日本勢の立ち位置に迫ってきた。05年になると、韓国勢の技術力や競争力はほぼ日本勢と同等レベルにまでたどり着いた。サムスン電子の半導体事業の業績が拡大する中、日の丸半導体群が顕著にシェアを低下させることになったのも、ちょうどこの頃のことである。

 しかし、エレクトロニクス関連事業では、相変わらずハイエンド系にこだわりがあった。それが災いして事業競争力の低下や撤退、経営統合などに追い込まれた事例は少なからずある。以下に、各事例として取り上げてみる。

【事例1】シャープの液晶事業

 直近のところでは、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に経営権が移ったシャープがあげられる。韓国勢に対して優位性をもっていた時代の液晶事業では、液晶パネルから液晶テレビに至るまで、「世界の亀山モデル」とまで称されるブランドを築いた。ところがじりじりと後方に迫ってくるサムスン電子やLG電子の足音に気付かず、あるいは耳を傾けようという努力を怠り、その後も、この分野に巨額の投資を続けていったことで経営危機に直面した。

 シャープの高画質を全面的に打ち出した広報戦略もひところまでは功を奏したものの、韓国勢が米国市場での業績を伸ばすにつれ、画質面や性能面でも対等なレベルにまで向上させたことで、シャープのみならず、ソニーの液晶テレビもシェアを食われるに至った。

 日本勢はハイエンド商品を主軸に展開。一方の韓国勢はハイエンド商品で日本勢との競合を図りつつ、ミドルレンジからローエンド系商品では低価格を売りに、日本勢に差を付けることで存在感を高めて行った。

【事例2】サムスンの携帯電話事業

 一方、韓国勢のサムスンがローエンド戦略を見誤った大きな失敗事例もある。2009年頃までは、携帯電話と言えば、フィンランド・ノキアの右に出るものはなかった。特にハイエンド系主体の欧米事業では、ノキアのブランド力はとても大きかったことで、サムスン電子も入念なベンチマークを実施した。米調査会社IDCによれば09年の世界市場シェアはノキアが36%、続くサムスンは19%と、その差は大きかった。サムスンの携帯電話も欧米韓市場で存在感を増す中、ノキアの事業競争力に迫る勢いを見せていたのである。

 やがて、中国市場を攻略に出たノキアと対抗するため、サムスンも欧米韓で成功しているハイエンド系を主体とした製品戦略で中国に打って出たのである。

 ところが、サムスンの携帯電話は売れずに不調。というのも、ハイエンド系を主とする商品群は、中国市場では高嶺の花であり、供給製品と顧客ニーズのマッチングが図れないためであった。反面、ノキアは中国市場でハイエンドもミドルレンジも供給する一方で、ローエンドを十分にラインナップして展開していた。すなわち、中国市場での顧客確保が確実にできていたのである。

 サムスンの反省は、個々の市場に応じた製品ラインナップ戦略をとる必要があること、それは欧米韓市場とは全く異なる中国市場では、それに即したきめ細かな戦略立案が必要であったということ。

 その反省を踏み台にして、スピーディに製品ラインナップを練り直して、中国市場再開拓を推し進めたことで、ノキアとの競合が可能となるまでの時間は長くはなかった。
以下ソース
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/246040/082200056/