「置くには置いた」という印象

少子化対策は一刻の猶予も許されない。ところが、安倍晋三政権からは相も変わらず、危機感が伝わってこない。その象徴的なシーンが、8月3日の内閣改造後の記者会見であった。

支持率が低下し、政権としての巻き返しを図る重要な局面で、しかも、年間出生数の100万人割れが明確になった直後の会見だった。にもかかわらず、安倍首相からは最後まで、少子化に対する言及が全くなかったのである。

出産可能な年齢の女性が減っていくことに歯止めを掛けるわけにはいかない。よって、われわれは当分の間、出生数の下落を「現実」として受け入れざるを得ない。しかしだからといって、少しでも現状を改善しようとしなかったならば、取り得る選択肢はますます少なくなる。

政府が当面すべきことは、出生数が減る勢いを少しでも抑えることである。

少子化が難しいのは、対策が後手に回れば確実に将来の社会の支え手不足に直結する点だ。子供たちが社会に出るまでには20年近い年月を要する。いま対策を講じなければ、その影響は後の世代に間違いなく現れる。そうした意味においては、ただちに着手すべき「喫緊の課題」なのである。

求められるのは、地道な政策の積み重ねだ。取り組みを成功させるには、トップリーダーの強い意志を国民に示すことが不可欠である。それだけに、今回の内閣改造にあたっては、安倍首相の姿勢が大きく問われていた。極めて残念である。

もちろん、今回の内閣改造で少子化対策担当相のポストを廃止したわけではない。だが、それは「置くには置いた」といった印象をぬぐえない。松山政司一億総活躍担当相が兼務することになったのだが、松山氏は情報通信技術(IT)やクールジャパン戦略、科学技術など数多くの政策を担っており、どう見ても、少子化対策に本腰を入れる時間的な余裕があるとは思えない。

政府の世論調査によれば、結婚や出産を希望している人は男女とも9割近くにのぼる。一方で、希望しながらも叶わないでいる。その原因・理由は、雇用の不安定さや出会いの少なさ、保育所不足などさまざまだ。政府としては、その1つ1つにきめ細かく対応していくしかないだろう。

そこで大きな課題となるのが、財源の確保である。