総務省は今年1月、2018年12月1日から4K/8Kの実用放送を開始することを明らかにした。それにともない、各メーカーは対応チューナーの開発を始めなければならないタイミングに差し掛かっている。

ところが、この次世代放送に際し、消費者の目線からは看過できない運用ルールの変更が、NHK主導で進められようとしていることが筆者の取材で明らかになった。

その実態を端的に説明すると、「消費者の負担増」である。

これまで消費者は放送の暗号化および契約者識別に用いるICチップ(現行方式ではB-CASカード、新方式ではACASチップ)のコストを負担してこなかった。ところが、4K/8K放送に対応するすべてのテレビや外部チューナー、あるいはレコーダーなどの価格に、ACASのコストが上乗せされる可能性が高くなっているのだ。

2018年12月まで1年半を切った今、ACAS規格を策定している一般社団法人「新CAS協議会(NHKおよび有料放送事業者による業界団体)」は、万一、加入者識別の仕組みが破られたことを懸念し、ACASの機能をカードではなくチューナー搭載機器に埋め込む方向で押し切ろうとしている。

これが大きな問題だ。従来のB-CASカードは1枚当たり300円のコストがかかっていたが、このコストのうち210円は放送事業者が、残り90円は受信機メーカーが負担してきた。消費者はカードが故障したときのみ2050円を負担する必要があるが、テレビやレコーダーの販売価格に上乗せされるものではなかった。

ところが新CAS協議会が主張する方式では、中間業者である半導体商社がチップを各メーカーにACASチップを販売したうえで、チューナー部に直接搭載することが求められる。すでに新CAS協議会はチップの販売業者の公募を開始した。

すなわち、ACASチップを搭載するコストは製品の販売価格に上乗せされることになる。メインボード上にACASチップが直接搭載されるため、修理もカード交換だけでは済まずメーカー対応となり修理代が大幅に上昇(数万円)するほか、商社とメーカーがそれぞれ適正利潤を乗せようとすれば、B-CASカードのコスト300円を超えることは必至だ。そして、その金額は製品価格に加えねばならなくなる。

金額は小さいかもしれない。しかし、問題はこのような議論が密室で行われてしまっていることだ。

2つのスクランブル解除機能
そもそもB-CASカードおよびACASチップには主に2つの機能がある。ひとつは暗号化された映像を復元するスクランブル解除機能。もうひとつは有料放送局が加入者を識別したり、NHKがカード番号登録を依頼するようメッセージ表示する際に用いる契約者識別機能だ。

なお、この2つの機能のうちスクランブル解除に関してはICを用いる必要はなくソフトウエアでも実現できる。つまり、CASを導入することによる受益者は、契約者識別によってスムーズな課金をできるようになるNHKと有料放送事業者ということだ。

実はこのB-CASカードも、サービス開始直前まではチューナー搭載製品への同梱が必須となる予定ではなかった。上記のように受益者となる事業者(NHKと有料放送事業者)が少数派だったためだ。

多数派である無料放送局はスクランブル解除機能以外は不要であり、ソフトウエアでも対応できる。そのため、費用負担が発生するB-CASカードには反対の立場だった。有料放送局は加入者識別機能がなければ、そもそもの事業が成立しないが、有料放送局ならば新規加入者向けに個別にカードを発行すればいいだけだ。

しかし、民放でデジタル放送開始の準備をしていた当時の担当者の証言によると、NHKの担当者がB-CASカードをデジタル放送の必須アイテムにするように強く主張したという。これはカード登録をうながすことにより、受信料未払いの視聴者をあぶり出すメッセージを表示するためだ。

この目的のために全デジタル放送チューナーにB-CASカードが添付されることになって現在に至っている。これだけでも利便性の点では大問題といえるが、費用負担という点では消費者が一方的に不利益を強いられることはなかった。

ところがB-CASカードの後継であるACASの枠組みが現行案のまま進められると、加入者識別機能にかかるコストは確実に4K/8Kチューナーを搭載する全製品の価格を押し上げ、消費者側の負担になる。

元々はB-CASカードと同じようなカード形式も検討されていたが、有料放送を無料のまま視聴可能になる「ブラックB-CASカード」が出回ったこともあるため、安全性のためにチップレベルで組み込む方向へと議論が動いてきたという。
以下ソース
http://toyokeizai.net/articles/-/181314