フィンテックという言葉の独り歩きはよくないと思っています。なぜなら、フィンテックとはテクノロジーそのものであり、あくまでも手段だからです。テクノロジーで解決できるのは顧客の「制約とお金」の問題で、「制約」とは取引上の時間や場所の問題、「お金」とは取引コストや顧客が収益を上げる上で、必要な環境整備に関わる課題のことです。

 当社が世界首位の外国為替証拠金取引(FX)では、実は日本の方々の取引量が世界シェアの半分ほどを占めます。それ以外の投資商品でFXほどの盛り上がりを欠く理由は、先の「制約とお金」の問題が解決できていないからだと考えています。インターネットで場所の問題は解放されたので、残すところは「時間」だと思います。

 ですので、24時間取引できるFXに加え、他の運用商品も取引可能な時間を増やす方向に進んでいくと思います。ただし、巨大なインフラを構築すると手数料に跳ね返ってしまうため、安価で確固たる基盤が必要です。そこでブロックチェーンの存在が重要になってきます。

 GMOインターネットグループのGMO―Z.comコインでは、5月から仮想通貨であるビットコインの取引サービスを始めました。今後、国境を越えたクロスボーダー取引では仮想通貨の存在感が高まるでしょう。例えば、あるファンドをビットコインで組成・購入し、不動産からのリターンもビットコインで受け取る。グループ内では将来的にそんな方策も視野に入っています。

証券会社として今後は、システム化の進んだプラットフォーマーを目指したいと考えています。自動化できるものは全て自動化し、対面・非対面でいえば、どんどん非対面化を進めます。人ができることは基本的に人工知能(AI)に置き換える。今から支店や店舗をつくってもどこかで重荷になるので、その次を見据えてプラットフォーム型の事業体制を構築しようとしています。つまり、人が介在してアドバイスしながら運用する密着型ではなく、取引する場を提供し、今まで人員を抱えてやっていたことを人が介在せずにできるようになる、ということです。

 一方で、対面のよさも理解しています。金融機関が利用しているデバイスで今、最も進んでいるのはスマホだと思いますが、ここにとどまっていてもダメだと考えています。目の前に人がいて、親切に相談に乗ってもらえる環境は大事です。その手段の一つに、仮想現実(VR)があります。例えば今年、金融機関として初めて、VRを用いたFXのツール(GMO―FX VRトレード)となるアプリをリリースしました。

 専用ゴーグルをかけるとチャートが立体的に並び、「渋谷櫻子」と称するキャラクターが利用法を説明してくれます。課題だったのは、どうやって発注するかです。結局、視線によって発注する(視線を一定の秒数以上あてると発注する仕組み)というぶっ飛んだ方法を取りました。ただ「目で発注」をやってみたものの、まだ使いにくい。そういう意味で、VRはバーチャルな画面上で商品選択の相談をする際などに有効だと考えています。

 また、ビッグデータの活用も非常に重要です。当社のFXの取引量は、月によっては150兆円にも上ります。膨大なデータ量であり、分析しがいのあるデータがずっと蓄積されています。これまでの基盤では大量のデータをさばけないので、実は1年以上前からビッグデータ基盤を整備するプロジェクトを進めています。

それは主に、FX会社が投資家との売買に伴って実施する「カバー取引」を最適化するためです。当社の顧客の取引履歴のみならず、全てのティックデータ(約定ごとの最小の値動き)という凄まじい量のデータも送られてきます。

 膨大なデータと分析の基盤、それに対応できる人員も集まり、研究できる段階に至りました。データ分析に伴うカバー取引の最適化がうまくいけば収益力が増し、一段の手数料の引き下げも可能となります。そうして、さらにシェアを高める好循環を回していきたいと考えています。
以下ソース
http://diamond.jp/articles/-/135384