電車が混み合う時間を避けて、快適な通勤を――。東京都が提唱する、通勤ラッシュの緩和に向けた「時差Biz」のキャンペーンが7月11日から始まった。

通勤時間帯をずらす「オフピーク通勤」の呼びかけは以前から行われているが、今回は小池百合子都知事が昨年の知事選で掲げた公約「満員電車ゼロ」の実現に向けた肝いりのプロジェクト。25日までの期間中、約260の企業・団体が参加して時差出勤やテレワークなどに取り組むほか、鉄道各社もポイントの付与やクーポンのプレゼント、臨時列車の運行などで混雑時間帯を避けた通勤を促す。

田園都市線に臨時特急
今回のキャンペーンに合わせ、臨時列車を走らせているのは東急電鉄と東京メトロだ。特に東急は期間中の平日8日間、通常は特急列車のない田園都市線で臨時特急「時差Bizライナー」を朝6時台に運転。平日の急行なら8駅、準急なら13駅ある中央林間―渋谷間の停車駅を、長津田・あざみ野・溝の口という「他社線との接続駅で乗降人員が多い駅」(東急の担当者)に絞った列車だ。

「時差Bizライナー」は中央林間を朝6時04分に発車。8時台に渋谷に到着する準急なら50分かかる中央林間―渋谷間を39分で走る。「早朝の時間帯は比較的混雑も少なく、所要時間も短い。利便性と快適性をアピールするため、目を引く『ライナー』を運行することにした」と東急の担当者はいう。

運行開始初日の11日はカメラを構えた鉄道ファンの姿が目立ったが、「時差Bizライナー」は本来のターゲットである通勤利用者からも一定の注目を集めているようだ。

初日の列車に乗った、渋谷まで通勤する40代の男性は「普段はもっと遅い時間の出勤だが、停まる駅の少ないこういう列車が増えるなら今後も使いたい」。毎朝5時台の電車を利用して時差出勤を実践している別の40代男性は「混雑を避けるために早朝に出ているが、普段からこんな列車があるといい」と話した。

中には、最寄り駅が藤が丘(中央林間より8駅渋谷寄り)にもかかわらず「試しに乗ってみようと思った」と、中央林間からあえて乗った女性も。通常は7〜8時台の列車を利用しているが「朝早く出て、お茶でも一杯飲んでから仕事というのもいいと思う」と、早朝出勤に前向きな様子だった。

東急によると、「ライナー」を今後も運転するかどうかは未定だが「今回の状況や、お客様の意見も踏まえて検討していきたい」という。

なかなか難しい「混雑の分散」
3月1日付の記事「『満員電車ゼロ』に時差通勤はどれだけ有効か」では、データを基に、都内主要路線の最混雑区間で1日のうちラッシュ時にどれだけの利用者が集中しているかを試算した。その結果は、2011年度の時点で平均26.4%。1日の輸送量の約4分の1が朝のわずか1時間に集中していることになる。これが分散すれば、通勤ラッシュは多少なりとも緩和されるはずだ。

今回の「時差Biz」に合わせて積極的な取り組みを行っている東急は、田園都市線の混雑緩和が大きな課題の一つだ。同線は、最も混み合う時間帯の混雑率が184%(2015年度)に達するが、ピーク時の増発は限界。今年4月のダイヤ改正では早朝の列車増発を行ったほか、以前から早朝の利用でポイントを取得できる「早起きキャンペーン」などを行い、ピーク時を避けた利用を促進している。

同社はこれらの施策について「一定の効果は出ていると考えている」というものの、数値的には「(シフトしたのは)5%には達していない」という。鉄道会社が個人に呼びかけるキャンペーンでの大幅なピークシフトは、なかなか難しいのが実情のようだ。

そんな状況だけに、都が主体となって推進し、企業や自治体、鉄道各社などを巻き込んで行う「時差Biz」には一定の期待が集まる。

だが実は、今回の「時差Biz」期間中に肝心の混雑緩和がどの程度達成されたのか、数値的に知ることは難しそうだ。

東京都都市整備局によると、今回のキャンペーンでは、参加した企業に対して社内での状況や意見、社員の感想などを尋ねるアンケートを実施するとしている。しかし、鉄道の混雑率については「改札の(通過)データなどを提供してもらえないかと鉄道事業者にお願いはしている」ものの、「今回は、期間中の定量的な効果を数字で出すのは厳しそう」な状況だという。
http://toyokeizai.net/articles/-/180339