【ハノイ=富山篤】ベトナム統計総局は29日、2017年4〜6月の実質国内総生産(GDP)が前年同期比6.2%増だったと発表した。同国で巨大工場を構える韓国サムスン電子の輸出回復を背景に、1〜3月の5.1%増を上回った。比較的高い成長は韓国企業頼みの側面が強く、財政悪化によるインフラ整備の遅れなど不安要素も見え隠れする。

 成長率が6%を超したのは16年10〜12月以来。最大の要因はサムスンの復調だ。スマートフォン(スマホ)や携帯電話の巨大工場を複数構え、同社からの輸出額は国全体の2割強だ。「ギャラクシーノート7」の発火事故の影響で今年3月までは輸出額が伸び悩んだが、後発機種が出た4月以降は勢いを取り戻した。1社の好不調が国の成長を左右する構図だ。

 ベトナム経済を支える韓国企業はサムスンだけではない。LGやロッテなどが相次ぎ事業を拡大し、同国への海外直接投資(FDI)額は14年以降3年連続で韓国が首位だ。安定した資金流入は成長に欠かせないが、1つの国への過度な依存を懸念する声は根強い。

 足元では新たな難題が浮上している。インフラ投資の遅れだ。

 ホーチミン市で建設中の都市鉄道1号線は昨年末、建設資金難が判明した。事業主体の市人民委員会に対し、中央政府が支払いを約束した経費の約3割しか支給しなかったためだ。1号線は住友商事や清水建設などが建設にあたるが、工事の遅れで20年の開業を危ぶむ声もある。日本政府は5月にグエン・スアン・フック首相に改善を申し入れた。

 政府がインフラ投資を抑える背景には財政の悪化がある。同国の公的債務の比率は16年12月時点でGDP比64.7%。政府が上限と定める65%に限りなく近づいた。日本などの政府開発援助(ODA)ローンを野放図に使ってきたためだ。

 ベトナム経済は韓国企業の進出を成長エンジンとするが、東南アジアで先行する周辺国に対抗するには製造業がまだ不足している。財政悪化を理由に高速道路や鉄道などの整備が遅れれば企業進出の鈍化につながり、堅調な経済成長に水を差す恐れはぬぐえない。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM29H8W_Z20C17A6FF2000/