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 しかし、思いのほか、ブラジルの景気は低迷し、レアル安も進行。27年12月期にブラジル子会社の減損損失1100億円を計上したキリンは、昭和24年の上場以来、初の最終赤字に転落した。

 今年2月、キリンはオランダのハイネケンの子会社にブラジル子会社を売却すると発表した。売却額は約770億円。磯崎功典社長は「単独で高収益事業に転換するのは難しいと判断した」と述べた。

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 「買収の判断自体が間違っていたとは考えていない」

 3月13日の会見で、DeNAの守安功社長はこう話した。同社は26年に、情報まとめ(キュレーション)サイトを運営するiemo(イエモ)を買収し、新規事業に参入。当時は住まいの情報を扱っていたが、他の分野に拡大することで、事業の柱を打ち立てようとした。しかし、2年後には信憑性(しんぴょうせい)に乏しい記事が掲載されていることや盗用が指摘され、10サイトの休止と謝罪会見に追い込まれることになった。

 経営が結果責任であることを考えると、この言葉はむなしく響く。守安社長は、「買収して事業を推進する中で、リスクの管理ができていなかった」と続けた。

 普通はM&Aの決断をめぐる社内のプロセスはなかなか、知ることができない。だがこの問題では、第三者委員会が調査。報告書では、同年7月に基本合意書を締結した後、社内の「戦略投資推進室」の責任者から懸念が示されていたことを指摘している。(1)資産査定をしていない段階での15億円という買収価格の妥当性(2)画像に関する著作権侵害の可能性がある中で、イエモのサービスをDeNA内で横展開することのリスク(3)イエモの最高経営責任者が、シンガポール在住のまま買収後のオペレーションを行うことのリスク−の3点だった。

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 いま振り返ると、いずれも的を射た指摘だ。しかし、DeNAは同年8月の取締役会でイエモ買収を決議。社内から上がっていたリスクを指摘する声は、部分的にしか共有されなかったという。

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 一方で、M&Aの成否が時間軸によって変わっていくことは確かだ。

 パナソニックは21年の三洋電機買収後、巨額の減損損失を計上し、M&Aに踏み切った決断は批判された。だが、同社が現在、米テスラ・モーターズの電気自動車に供給するなど、成長分野に位置づける二次電池には、三洋の技術力も貢献しているとみられる。パナソニックの関係者は「将来的にどの部分を伸ばすか、と考えると買収しない方がよかった、とはいえないはずだ」と話す。

 ソフトバンクグループが25年に買収した米スプリントも当初、業績が低迷し、孫正義社長が売却を模索したほどだった。しかし、米国でのネットワークを強化したことで、「お荷物だったスプリントが成長エンジンになってきた」(孫社長)と期待されている。

 M&Aについて早大ビジネススクールの長内厚教授は、「企業が新たな組織能力を獲得するという点で有効な手段だが、マイナスのリスクを同時に抱え込むことがある」と話す。原発事故やブラジル経済の低迷を当時は予測できなかったように経営者の判断は難しいが、「コアコンピタンス(企業の中核的な能力)の強化に有益かどうかが基準になる」という。東芝の原発事業については「特殊な技術だが、応用範囲は狭い。震災後に消極的な市場の動きがあった中で、早急にリスクを切り離さなかったことも問題だった」と、買収後の戦略の重要性も指摘している。(経済本部 高橋寛次)