製薬大手 がん免疫療法で分かれる戦略

国内製薬大手が免疫機能を使ってがんを退治するがん免疫療法を巡り、協業を急いでいる。自社の抗がん剤との併用治療法の開発や共同開発による創製を目指す。免疫薬は新たな潮流となりつつあり、いかに波に乗れるかが業績を左右する。
エーザイと米メルクのような大型提携を含め、M&A(合併・買収)に発展する可能性もある。

エーザイは今月、自社の抗がん剤「レンビマ」と米メルクのがん免疫薬「キイトルーダ」の併用療法の開発を進める提携を発表した。従来の抗がん剤を大きく上回る効果を示すがん免疫療法にどう絡むかは、製薬業界で急速に浮上している重要テーマだ。
エーザイは米メルクと2015年以降に腎、肺など7種類のがんで、薬の併用の臨床試験(治験)を進めてきた。19年度にも子宮内膜や肝細胞のがんで申請する。
レンビマは、キイトルーダなどの抗体ががんを見分ける様々なシグナルを増強する。内藤晴夫社長は、がんの目印となるたんぱく質「PD―L1」の発現量が少ない患者でも「発現している患者と同程度の効果を持たせられる」と話す。
提携により、治験の症例を現在の1がん種20〜30症例から100症例規模まで増やす可能性がある。
エーザイは小野薬品工業とも17年9月、「オプジーボ」とレンビマとの併用に向けて提携した。肝細胞がんで第1相治験に入っている。
がん免疫療法のなかで免疫チェックポイント阻害剤と呼ぶ種類の薬に対し、両にらみの状態だ。治験の進み具合に応じ、戦略を練り直す可能性がある。

第一三共は17年、世界で早くから注目されたオプジーボと自社の抗体薬物複合体「DS―8201」を併用する第1相治験を始めている。難治性の乳がんやぼうこうがんがターゲットとなる。抗体が標的とするたんぱく質が少ない患者など治療が難しい領域で高い効果を狙う。
第一三共は、キイトルーダやオプジーボと手法の違うがん免疫療法「CAR―T細胞療法」にも触手を伸ばした。米カイト・ファーマから17年1月、米国で発売されている薬について、日本での独占的な開発・製造・販売権を得た。

スイスのロシュ傘下にある中外製薬はがん免疫薬「テセントリク」と、抗がん剤「アバスチン」との併用で肺や腎細胞のがんを狙う。アバスチンは国内で今後後発品が発売される見込みで、薬の価値を維持する上で併用療法の成否が業績を大きく変える。

併用に向けた提携が相次ぐ背景には、免疫薬や技術を持つ企業側にとっても併用が重要テーマとなっていることがある。がん免疫薬の場合、投与した人の2〜3割しかまだ効果がみられないため、患者への効果をさらに高めることが競争力となるからだ。

併用の需要を重視するエーザイ、第一三共、中外の3社とアステラス製薬、武田薬品工業のスタンスは異なる。

アステラスは米ポテンザとがん免疫療法を研究しているが、オプジーボやキイトルーダと異なるターゲットの薬を開発する。免疫を刺激する技術などが対象だ。
これとは別に鳥取大学と18年3月、細胞の中に入って腫瘍を壊す腫瘍溶解性ウイルスの開発・商業化について世界でのライセンス契約を結んだのも、既存のがん免疫薬と違う作用を狙った。
これらは非臨床段階だが、実現すれば併用療法を上回る収益を上げられる上、開発した免疫薬を軸に協業のネットワークを作ることができる。

国内最大手の武田は出遅れた。17年9月に山口大学発ベンチャー、ノイルイミューン・バイオテック(東京・中央、石崎秀信社長)との提携を発表した。有望なCAR―T細胞療法の技術を持ち、創薬に成功した場合のリターンは大きい。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28116180U8A310C1XB0000/?n_cid=SPTMG053