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●みんなが長生きできたのは、1人の医師のおかげ
■浜松市の北の外れ、長野県との県境にある、静岡県浜松市・天竜区佐久間町・西渡(にしど)地区、現在わずか540人の集落。
 『久根銅山閉山から40年経った今も』、西渡には38人のじん肺患者がいる(2013年)。2012年も、5人がじん肺で亡くなった。
■企業が去った後、残されたじん肺患者達に手を差し伸べたのは、一人の若い医師だった。
 集落に唯一あった診療所の医師・海老原勇(いさむ)先生。鉱山が閉山した直後、27歳の時、大学を出てすぐにこの地にやってきた。
 じん肺の研究を始めると共に、患者の診察に奔走した。
■赴任して10年、治すことの出来ないじん肺をもっと知ろうと、研究のため神奈川へ移る決心をした。
◆じん肺患者「もしずっとおれんのならさ、週に3回でもいいでよ、来てもらいたい」
 海老原医師が西渡(にしど)を離れる日、村人総出で荷物を運んだ。
 先生が村から去ってしまう。みんな、絶望の淵に立たされた――。
■残された患者を診察するのは、そう、あの海老原医師(2013/05/29時点68歳)だ!
 東京での診察の傍ら、週に3日は片道4時間かけて、この西渡に通い続けている。もう35年になる。
 今も、患者の家は全て把握している。具合が悪くなった時、すぐに往診するためだ。

●キーワード
■《アスベスト》
 耐火や防音に優れ、『日本は鉄骨の建物に使用を義務付けた』。日本で過去作られたアスベストを含む建築材は、2200種類以上。耐火性に優れた
■《ヨロケ》
 労働者の肺は銅山の粉塵で侵され、苦しさのあまり胸を掻きむしり、ヨロケながら倒れた。村の人達は、この病を《ヨロケ》と呼んで恐れた。
 一度かかると治ることはなく、進行を抑えるしか手がない。
■《石の肺》
 『火葬場で普通の人の5倍燃料を使っても、胸だけが残った。「石」を燃やしたように真っ赤』。(アスベストは鉱石だから)
■《死の棘(とげ)》
 『アスベストは綿のように見えるが、元は「鉱石」。棘のようなものが、アスベストの正体』。
 舞い上がった粉じんを吸い込むと、肺に刺さり、高い確率でじん肺になる。未だ有効な治療法はない。まさに死の棘だ。