バブル崩壊以降、日本経済が「失われた30年」に苦しむなかで、それまで世界の最貧国だった中国や韓国がグローバル化によって経済成長の波に乗り、急速にキャッチアップしてきました。いまや中国のGDP(国内総生産)は日本の3倍で、1人あたりGDPでは韓国に並ばれました。かつては「アジアでは圧倒的なナンバーワン」だった日本人の自尊心は大きく揺らぎ、これが2000年以降の「反中」「嫌韓」の社会現象につながっていきます。

安倍元首相はこうした風潮のなか、「愛国」の象徴として、右派・保守派の圧倒的な支持を集めました。ところがその一方で、日本の信者が韓国のためにひたすら貢ぐことを教義とする宗教団体に深くかかわっていたのです。

これは心理学でいう「認知的不協和」の典型で、これまで元首相に共感してきたひとたちは、「愛国」と「反日」の矛盾に引き裂かれてしまいました。

ネット上では、容疑者は「烈士」と呼ばれています。烈士とは国のために殉じた者で、そこには、これまで隠されていた「反日の陰謀」を身をもって暴いたという賞賛の気持ちがあるのでしょう。しかしそうなると、「烈士」が「愛国者」を誅したことになってしまいます。