鴻上 徐々にネットと現実社会の境界を飛び越える人が増えるでしょう。ネットの言語に慣れてきますからね。たとえば飲み屋などでとても文字化できないようなヘイトスピーチを口にする人がいるじゃないですか。「〇〇人は出ていけ」とか。

 こうした人たちは、やはり、自分が持っている「世間」しか意識していないというか、外側に「社会」があることを分かっていない。白人至上主義の秘密結社クー・クラックス・クラン(KKK)みたいなのは何で白頭巾で顔を隠すかというと、あれは外側に社会がちゃんとあることを知っているからなんです。

 白人至上主義の主張を、顔を出して堂々と言えるようなものでないことくらいは理解している。黒人を殺せとか吊るせとか、それは内輪でしか通用しないことが分かっている。でも、言わずにはいられないから、顔を隠して訴えるわけです。

 海外の極右のデモは「社会」を意識した緊張感があります。でも、日本の飲み屋などで、あるいは街頭でもそうなんだけれど、特定の民族や人種に向けて「死ね」などと、割と普通に聞こえる距離で言っているのは、その人の脳内に「社会」が存在していないからだと思いますね。意識すらしていないかもしれない。

 2013年でしたか、大阪の鶴橋で在日コリアンを「虐殺する」と街宣した少女がいたじゃないですか。彼女もまた自分の「世間」のなかで生きてきたから、リアルな場所ででもあれだけの言葉を叫ぶことができたと思うんです。本当は彼女にも外側に「社会」があるのだと伝えたい