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 休校要請を知った時、2人の子を持つ同僚は足の力が抜け、
下の子と手をつないだまま、その場にストンとへたり込んでしまったという。
仕事と育児の両立が難しいのはもとより、いい担任の先生と出会って、
子どもの確かな成長を感じて喜んでいたのに、こんな形で断たれてしまうのか、と。

 私は不思議で仕方がない。これほど重大な判断を、首相はどうして会議の席で、
紙を読み上げるような格好で、さらりと言ってのけることができたのだろうか。
すぐに会見を開いて、そう判断するに至った理由を説明し、言葉を尽くして
理解と協力を求めたり、疑問に答えたりしようとは考えなかったのだろうか……と、
とりあえず疑問形でつづってみたが、実はすっかり腑(ふ)に落ちている。
2014年、集団的自衛権の行使容認を表明する首相会見で示された、
赤ちゃんを抱く母親に寄り添う子どものイラストを見た時、私は思った。
薄っぺらな母子のイメージをこれほど雑に利用してのけるのは、
女を、子を、そして子育てを、本当のところはナメているのだろうと。

 「断腸の思いだ」。休校要請の翌々日にようやく開いた会見で首相は釈明したが、
そんな2日前の日記を読み上げられたところでいったい何になるというのだ。

 あの日、多くの親たちが不安と困惑の渦に放り込まれた。
経済的、社会的に厳しい立場にある人は、より激しい渦へと。
それを「あとは自助努力でよろしく」とばかりに放置した首相は、
一国のリーダーとしての資質を欠いていると言わざるを得ない。