グローバル・スタンダードでは日本の財政再建目標は既に達成
https://zuuonline.com/archives/171038

長期間の経済低迷により家計に力はなくなってしまっているため、日本の景気動向は企業活動に左右されている。
企業貯蓄率が企業活動の強さを表す代理変数になっていることを指摘してきた。
そして、税収などを通じた景気自動安定化機能により、企業貯蓄率と財政収支は逆相関の関係にある。
企業のデレバレッジやリストラなどで企業貯蓄率が上昇すれば、景気動向が悪化し、税収が減少するなどして財政収支も悪化する。
企業の設備投資や雇用拡大などで企業貯蓄率が低下すれば、景気動向は改善し、税収が増加するなどして財政収支も改善する。

言い換えれば、企業貯蓄率で財政収支を推計すれば、景気循環要因の財政収支が分かることになる(2000年からのデータ)。

財政収支(GDP比%)=−1.5−0.73企業貯蓄率(GDP比%)+残差、R2=0.54
企業のデレバレッジが完全に止まり、総需要を破壊する力がなくなり、デフレ完全脱却となる企業貯蓄率は0%であると考えられる。
その時の景気循環要因の財政収支が0%だとすると、景気循環要因の財政収支(GDP比%)は−0.73企業貯蓄率となる。

企業貯蓄率が高ければ、民間貯蓄が潤沢であり、財政ファイナンスも容易となるため、財政収支の赤字は大きくても安定的となる。
更に、大きな財政赤字は需要を追加し、経済活動の縮小を防止するために必要である。
そして、日銀が経済活動の拡大にともなう成長通貨を一定量供給する必要があるとする。

かつて日銀は国債買い切りオペをそのような名目で行っていた。
その分の国債発行、すなわち財政赤字が常時必要であり、推計の定数の分である−1.5%(GDP比%)とする。
この二つ、景気循環要因と成長通貨供給で説明できない残差が、構造的な財政収支ということになる。
構造的な財政収支には、消費税を含む社会保障関連など、景気要因以外の政策が含まれると考えられる。
高齢化などによる社会保障支出の拡大や「将来世代に負担を押し付ける」ような野放図な財政支出が手におえない状況になってしまっているのであれば、この構造的な財政収支の赤字幅は拡大傾向にあるはずだ。
財政収支は、成長通貨供給、景気循環的財政収支、そして構造的財政収支に分解することができることになる。
財政収支=成長通貨供給+景気循環的財政収支+構造的財政収支
構造的財政収支を推計すると、2000年から現在までほぼGDP対比3%以内の安定的なレンジに収まっていることが分かる。

高齢化などによる社会保障支出の拡大や「将来世代に負担を押し付ける」ような野放図な財政支出に対する警戒感は過度であることが証明され、現実の日本の財政運営はかなり安定していることになる。

更に、2015年からは構造的財政収支は既に黒字化していることも分かる。
景気循環要因を除いた「構造的基礎的財政収支」をターゲットにするグローバル・スタンダードでは、日本の財政収支は既にかなり安定的になっている。
または、財政再建目標は既に達成していることになる。

日本独自のゆがんだスタンダード(景気循環要因を含む基礎的財政収支)による過度な財政懸念で、財政緊縮を推し進めてしまうと、
デフレ完全脱却を妨げるばかりではなく、安定的な経済成長、そして弱者救済策やセーフティーネットの脆弱化などで国民生活の向上を阻害してしまうことになる。

企業貯蓄率がプラスである異常な状態であれば基礎的財政収支が赤字なのは当然であり、2020年度までに強引に黒字を目指す経済的意味はほとんどない。