「グラン……」
騎空挺の一室で、静かに眠る少年を不安そうに見守り、介抱する少女は1人声を漏らす。
「どうしてこんな事になってしまったのじゃ……我はどうすれば、グランを救えるのか……」
少女は大きくため息をつくと、少年の額に乗せた濡れタオルを取り替え、枕元に置いたすっかり温くなってしまった水を取り替えるべく立ち上がる
「我がなんとかせねばならん、なんとか……」
少女は自分に言い聞かせるように静かに呟くと立ち上がり、貯水槽へと向かった。
その途中、少女の耳にはニュースを知らせる声が届く。
『Wスターレジェンドガチャ開催中!期間中はSSRキャラ解放武器、召喚石が確定!詳細は〜」
「あんなものさえなければ、グランは……」
少女は目を伏せるとこれまでグランが受けた数々の責め苦を追憶し、唇をかんだ。 冷たい水に手を濡らし、水を汲んでいると、どたどたと騒がしい足音が船内に響き渡る。 少女はそれを聞くや否や、水を汲む手を止め、倉庫を飛び出る。
「まさか、グラン!」
操舵室へ飛び込むと、虚ろな目をした少年がフラフラと歩き、舵を握ろうとしていた。 そのポケットにはまるで嘲笑うかのように大きく口を開けた顔が描かれ、「10000円」と赤く刻まれたカードが9枚ほど刺さっている。
「グラン!もうよせ!グラン!我はもう!おぬしに傷ついて欲しくは!」
少女は必死に目に涙を溜め少年に縋り付き、舵を掴む手を離そうとするが、少年はその手に力を入れたまま動かない
「アニラ……モバコイン還元、おる……9万天井も、おる……シヴァ蛸おったら、終わる……」
「確かにHRTはそう言っておったが、あの男がそう簡単には!」
「シヴァ蛸……おる……」
少年は何かに取り憑かれた様に舵を握ると、シェロカルテの商店を目指した
「いらっしゃぁ〜い」
「シェロカルテ……シヴァ蛸、おる?」
「はい〜」
「……!ハジブル!ハジブル!」
少年は一転し目の輝きを取り戻すと、シェロカルテにポケットの中身を全て投げつけ、交換所へと走る
「9万天井がついたし前よりはマシになったな! ムーンもきたしご理解したわ!」
少年はこれまでになく饒舌に言い放ったが、その足はシェロカルテが素早く伸ばしたワイヤーに絡め取られ、少年は頭から床に叩きつけられる。
「グラン! 何故じゃ、シェロカルテ!グランは確かに9万円分回すではないか!」
「それがですねぇ〜」
「この場をお借りして、私が説明させていただきます」
「ひっ!?KMR!」
ヨレヨレのネクタイにボタンと口を半開きにした薄気味の悪い男が交換所の前に現れると、少年と少女は身を固め、戦慄する。
「お客様に安心してレジェンドガチャをご利用いただける様、一部ピックアップの賞品を300回ご利用するごとに獲得していただける様なりました」
「な、なんじゃこの交換対象のショボさは!これでは意味がないではないか!」
「ユーザー側に立っています ご」
男はそれだけ言うと、口を閉じ、少女の問いに答えることなく姿を消す
「待て、HRT! ……消えてしまった…… シェロカルテ、さっきはシヴァ蛸があると申したではないか?何故……」
シェロカルテは表情一つ変えず、チケットをチラつかせる
「はい〜」
「ゴールドムーン、おらん……オワブル…」ブリッブッチブリブリブウブウ
少年はそのチケットを目にすると、体を置きあげることなく身体の力が抜け、倒れ伏す
「ゴ、ゴールドムーン150……そんな……あんまりじゃ……」
静かになった少年に泣きながら少女は歩み寄ると、なんとか抱きかかえすごすごと騎空挺へと引き返すのだった