℃-ute七姉妹物語シーズン3
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よかったまだ人がいた嬉しい!
まあ、ずっと放置しちゃってたから仕方ないですよね
2月だし、次はバレンタインでもネタにして、今度こそ長くなりすぎないのを一本書けないか模索してます
>>11や誕生日の話も書きたいんだけどおっつかないや >>101
始まったときから読んでました。
最初は誰と待ち合わせしているのかわからなくワクワクしていました。
またお願いします >>102
おお、ありがとうございます!
期待されたら次も必ずやります
では、お話も書かずに全レスしてるコテはうざいだけだと思うので
自分は次のお話まで姿消しますね
次は『ちっさーとチョコレート工場』(仮)で
『ちっさー』の部分は『まいみぃ』か『なっきぃ』に変わってるかもしれませんが もうここに惹かれてから四年の年月が経ったけど相変わらず大好きです ℃新規で初めて読んだのですが・・・泣きました
今からログ保管庫いってきます サバ移転か何かでスレが軒並み消えたときに小説スレは絶滅したと思ってた。
明日からボチボチ楽しみに読ませてもらいます。 PCが逝ってしまってトリップがわからなくなったけど1号です。
忙しいけど、そろそろ何か書きます。てか書きたいです。
才能の無い人間が物を書いて残すのは、なんか恥を掻き残してるみたいで気が退けてたんですが、
やっぱり℃と、この世界観が好きなんで、どうしても書きたくなって戻ってきてしまいます。
なので、この場が残ってるのは本当にありがたいです。
勝手な作者にお付き合いいただき、下手なお話でも待っててくれるような方には、本当に感謝してます。
で、次のお話・・・
時系列はバラバラになるのですが、舞美が何故女優を目指そうと思ったかを描く>>11(舞美×愛理)
『会いたいのに〜』のラストでちょこっと描いた、愛理の感じる疎外感・孤独感と
その解消を描くエピソード
何故か芸能界デビューすることになった千聖の、みんなを巻き込んでのちょっとしたドタバタ
・・・の、どれかを書こうと思ってます。
情けないことにどれも7〜8割の出来、どれを集中して仕上げようか迷っています・・・。
「これだ!」ってのが出来たら、それから書き始めたいと思います。
あまり期待しないで、1〜2週間後にまた覗いてみて下さい。「8月中に一話仕上げる!」が目標です。 これ?
69 名前:1号 ◆7AYn.Q6rXU [sage] 投稿日:2010/12/23(木) 22:35:38 ID:HfBycr330 >>113
そうです。その文字列にするための文字が消えちゃいまして。
まあコテなんてウザいだけだろうし、別にこだわりも無かったからOKです。
無駄な自己顕示欲なんて抑えて、何か主張があるときはお話の中に込める
名無しに戻ればいいんですけどね。
このスレに限りつい主張や自我みたいなもんが顔を出して、いつも反省してます。 遅くなってごめんなさい、もうすぐプロット一本完成します。来週中には絶対始めます。
本編の展開とは何の関係も無いんだけど、舞美が作中で観る映画のタイトル
(ラブロマンスと女性が主役のアクション映画・共に洋画)みたいなどうでもいいとこで
つまったりしてます・・・
何かいいタイトルないかな ℃-uteの曲名じゃだめかな?
「FOREVER LOVE」
とか
「Kiss me, love you」(Kiss me 愛してる)
とか >>117
おお、その手があったか。
ありがとう、使わせてもらいます!
アクション映画も何か無いかな。女性ヒロインが主役の、お話のヤマに観る大事な映画。
だけどタイトルは何でもいいという、いい加減というか何というか・・・
あらすじを考える以外は苦手です アクションは…
「Fighting Bear」
とかどうですか?
ちなみに主演は日本人のKUMAIという背が高くて、美人でちょっと天然な女優さんというイメージ。
…すいません、余計な設定まで付けちゃいました…m(_ _)m
>>119
実は主演女優のイメージに意味があって、展開上ちょっと外人さんである必要があるので
熊井ちゃんは次の機会に…m(_ _)m
タイトルはテキトーに考えてみます
本編書き始めたら相変わらず文章下手で嫌になっちゃった…
自己流でいいですよね
貼れる分量書き溜められたら始めますね
※言い訳の前書き。
実は、今から始めるお話は、時系列的にはこのスレの冒頭『キュートなサンタがまた〜』の
一つ前、時期的にはもう二年前のお話になっちゃうのですが、どうしても描きたかったのと、
『物語』と銘打ってる上で必要なエピソードだと思ったので、あえて描かせてもらいたいと。
ですから、梅さん卒コンあたりの、ロングヘアーの舞美を想像して読んでいただけると幸いです。
目標は、20レス以内・一ヶ月以内の完結!
でもまあ、マイペースでやらせてくださいな。
では。
十月のある日、学校の授業を終えた舞美は、一人で映画館の暗闇の中にいた。
一度、家に戻る暇が無かったので、高校の制服姿のまま見上げたスクリーンの中、
本編前に上映された数本の予告編の中の一本に、その映画はあった。
それは洋画で、女性が主役の、よくあるたわいも無いアクション映画に見えた。
それでも、ほんの短い予告編の中でも、主演の女優さんがとても格好よく思えた。
後に自分の人生を変える映画になるとも知らずに、舞美は、ほんの軽い気持ちで(へええ、面白そう
だな。この次はこれが観たいな)と、そのタイトル『UPSTANDING』を記憶した。
この日、舞美が観たのは、洋画のラブストーリーだった。
もともと、観終えた映画の余韻に浸るのが好きで、エンドロールは最後まで眺める方だったが、
長いエンドロールが終わり、場内が明るくなっても、舞美は席から立てないでいた。
この“ぐずぐず”に泣き腫らした顔では、外には出られないと思ったからだ。
それでも(もうあまり時間は無いはずだ)と、頬に当てていたハンカチを離して、その手の
内側にしていた腕時計を見る。午後の八時を少し回ったところ。予定の時間を過ぎていた。
(……やばい!)と、最後に強引に目頭をひと拭いして、席を立つ。
シネコン式の劇場の、いくつもの扉が並んだ細長い通路を抜けて広くて明るいロビーに出ると、
「舞美ちゃん」
舞美はそこで、立っていた待ち人に声を掛けられた。
「愛理ぃ!ここまで来てくれたんだ?」
「うん。舞美ちゃん、多分ここで映画観てるなって思ったから」
舞美と同じく、学校の帰りにそのままここへ来た愛理は、中学校の制服のままだ。
普段の通学バッグの他に、体の脇にもう一つ大きなバッグを下げている。
「ごめんね、待たせちゃって。ちゃんと映画が終わる時間を計算して、間に合うと
思ったんだけどさ……」
舞美が申し訳なさそうに言うと、
「何言ってんの、いつも待たせてるのはあたしの方じゃん」
愛理は、構わないよという風に手を振ってみせた。
「でも、本当は、あたしが待っててあげなきゃ、迎えに来た意味がないのに……」
舞美はそこで、愛理が下げていたバッグに視線を落とす。
バッグの中にはきっと、たっぷりと汗を吸ったレッスン着とシューズが入っているはずだ。
「今日はダンスレッスンだったんだ。どうだった?」
「もう、全然全然、ラクショー!って感じだよ」
愛理は、わざとふざけた感じで大げさに言い、「ほら」とその場でコミカルに踊ってみせる。
その妙な動きに「何、それ」と舞美が笑うのを確認して、愛理もにっこりと笑った。
そのあと、ふっと真顔になり、
「……あたしねえ、ダンスも結構好きかも」
そう言うと、今度ははにかみながら微笑んだ。
普段、それほど体を動かす方でもなく、本当にダンスが出来るかどうかと心配していた愛理を
知る舞美は、「そう、よかったじゃん」とほっとして答える。
ある大手の芸能プロダクションが大々的に開いた歌手オーディションに合格した愛理は、
都心の、レッスン場が併設された芸能事務所に通って、毎週のレッスンに励んでいた。
昼間にレッスンがある土曜や日曜と違い、平日のレッスン開始は主に夕方から夜になる。
関東の住まいとはいえ、都心からそれほど近くない距離から通う愛理にとっては、それだけ
帰宅の時間が遅くなってしまう。
愛理の“保護者”を自認する舞美は、地元の駅からの帰り、暗い夜道を、まだ中学生の愛理に
一人で歩かせるわけにはいかないと思い、レッスン帰りの愛理を必ず迎えに来ていた。
「それより、舞美ちゃん……」
「何?」
愛理が、突然舞美の顔を覗き込んできた。
「この映画さ、そんなに泣けた?」
「……え!?」
「目、真っ赤だよ?」
可笑しそうに見つめる愛理に、「だってえ……」舞美は振り返る。上映中の作品のポスターが
並んでいた。その中の一枚を見て言う。
「この女の子がね、一途で、健気で、可哀相でさ……」
舞美の視線の先には、ブロンドのロングヘアーが印象的な綺麗な女優さんがいた。
『EVER LOVE』というタイトルのその映画は、病に冒された女の子が、その短い生涯を、好きな
男の子に捧げるというもので、ありがちなお話だけど、とにかく泣けると話題になっていた。
女の子が一人で恋愛映画を観るのは淋しいな、とためらっていた舞美も、上映期間の終了間近に
ようやく「観よう!」と決心をした。結果は、「観てよかった!!」と思えた。
綺麗で、儚げな雰囲気の女優さんに魅せられ、その切ない恋に、大泣きをさせられてしまった。
「やだ、思い出したらまた泣けてきちゃった……」
舞美の目が、また潤み始めた。
「大丈夫舞美ちゃん、ね、ね、ハンカチ持ってる?貸してあげよっか?」
「……だいじょうぶ……持ってる……」
ポケットからハンカチを取り出し涙を拭う舞美の肩を、「ほらほら」と愛理が優しくぽんぽん叩く。
「涙が止まったら、行こ」と愛理が促すと、「うん」と鼻をすすって舞美もゆっくりと歩き出す。
どちらが保護者かわからない、制服姿の二人が、並んで劇場のロビーを後にした。
――去り際に愛理が、壁に並んで貼られた上映前のポスターを眺めていった。
シネコン式の映画館が上階に入った商業ビルのエスカレーターを、二人で上下に並んで下りる。
下の階にはレストランのフロアがあった。
「……ちょっと、お腹空いちゃったね」
切り出したのは一段上にいた舞美だった。言葉には、何か軽く食べていきたいね、という
ニュアンスを含ませて。しかし――、
「うん。でも、家でご飯作って待ってるからさ……」
「そうだね……」
愛理の言葉に、舞美は(いけない!)と自省して答える。ただ映画を観ていた自分と比べて、
ダンスのレッスンを終えた愛理の方が、ずっとお腹が空いてるはずなのに、と……。
下階に着くと、二人は横に並んで歩いた。「……今日は、誰だっけ」舞美が今晩の食事当番を
尋ねると「たしか……千聖」愛理が答える。
「じゃあ、また、アレかあ……」舞美が言う。
「いいじゃん、美味しいんだから……」
「うん、まあ……」「ねえ……」
思い出して、二人の言葉が詰まってしまう。そこで、今度は愛理から話を切り出す――。
「でも舞美ちゃん、映画好きだよね?」 今の羊なら、そう簡単には落ちないですよ多分
続き書いてるけど、このペースだと明後日あたりになりそう
「そう……かな?」
訊かれた舞美は、映画が好きな友達のことをを思い出していた。
いつも映画館に通って、映画の話をして、映画監督や役者の名前にも詳しかったその子に比べると、
自分は監督どころか、役者さんの名前もろくに知らないし憶えていない。
そんな自分が映画好きを自認してはいけないと思い、「……そうでもないよ」と否定をした。
「でもさあ、舞美ちゃん、いつもここに来てるじゃん」
愛理が再び訊ねた。
「それはさあ、たまたま、ここに映画館があったからだよ」
愛理が通うレッスン場は、わりと大きな繁華街の中にあり、側にシネコン式の映画館があった。
愛理を迎えに来た舞美は、愛理がレッスンを受けている間、ここで映画を観ていることが多かった。
「映画を観てるとさ、待ってる間、ちょうど時間を潰せるから」
舞美が言うと、「……」愛理は無言でそれを聞いていた。
二人は、建物を出て街の雑踏に交じる。夜でも賑わう目抜き通りを、駅に向かって歩き出した。
「……ねえ舞美ちゃん、いつも待たせちゃってごめんね」
横を歩く愛理が、前を向いたまま小さく言った。
「何言ってんの、あたしが勝手に来て待ってるだけなのに」
舞美は否定をする。「それにさ……」次に口から出た言葉は、愛理を安心させるためだけに言う
言葉ではない、紛れも無い舞美の本心だった。
「……本当はね、早くここへ着いて、愛理を待ってる間に、映画を観るのが楽しみなのかも」
「……そうなんだ?」
「うん。一度観始めるとさ、何か癖になっちゃったみたいで、次々に新しい映画が
観たくなっちゃって」
「へええ」
お互いに、前を向いたままの会話だったけど、愛理の顔に明るさが戻るのがわかった気がした。
「でも舞美ちゃん、この前は、ホラー映画も一人で観たんでしょ?凄いよねー!」
愛理が言った。
その程度のことを、とても“大変な偉業”のように言う愛理が“可愛い”と思えた。
「別に、凄くはないでしょー?」笑顔で答えながらも、そういえば以前の自分は、
ホラー映画を一人で観にいくなんて、たしかに考えられないなと思った。
「怖かったけどさあ、面白かったよ」
観た映画の内容を思い出す。荒廃した世界で、ゾンビに立ち向かう女戦士が、とても格好良かった。
「ほら、映画ってさあ、いながらにして、どんな世界でも体験できて、何にでもなれて、
みたいなところが良くってさ……」
つい語り始めた舞美の話を、愛理は横で黙って聴いている。
「それにさあ、映画を観てる間は、何も考えなくて、嫌なことも全部忘れられるっていうか……」
舞美は、そこまで言って、はっと“そのこと”を思い出し黙ってしまう。そんな舞美に、
「舞美ちゃんさあ、やっぱり映画が好きなんだよ」
愛理が、にっこりと笑顔を向けた。
「……ううん、ただ癖になったから観てるだけだよ」
やっぱり、そんな自分が映画好きを名乗ってはいけなと思い、舞美は改めて否定をする。
「それより、愛理……」映画から話題を変えようと、舞美は違う話を振る。
「……帰ったらさ、今日のダンスのステップ、教えてよ」
「え……さっきの!?」
「違う!あんな変なのじゃなくて、レッスンで習ったやつだよ!」
咄嗟に、また妙な動きを披露する愛理に、舞美はつい笑ってしまう。
おかげで、“愛理の変なダンス”に話は逸れて、会話が弾み、二人は笑いあいながら駅に着いた。
帰りの電車は、まだ混んでいた。
舞美と愛理が立っていると、ほんの数駅を過ぎた停車駅で、ちょうど前に座っていた二人組の
女性が立ち上がり、空いた座席に並んで腰掛けることができた。
『ほっ』と一息をついたあとで、舞美から話しかけた。
「……やっぱりさあ、車があった方がいいよね」
「え?」
「ほら、あたし、来年の二月には自動車の免許証が取れるから。そしたら、さ……」
そこまで言うと、愛理がもの凄い勢いでぶんぶんと首を横に振った。
「いいよいいよいいよ車なんて、そんなそんな……」
「どうしてよ、車があると便利だよ?」
「だって……舞美ちゃんが運転するんでしょ?」
「なによ、それえ!?」
「そうだ!車はさ、なっきぃが免許を取ってからでいいよ。それからでも遅くないからさ。
ね?ね?ね?」
普通の運転はいいんだけどふとしたときになんかしそうで怖いねw
「……ちょっと!?いま信号赤っ!!!」
「…えっ!?」キキーッ
「交差点の真ん中で止まらないでー!」
必死な愛理に、舞美は思わず『むぅ』と口を尖らせる。
“天然ドジさん”なのは不本意ながら(……あくまで不本意ながら!)認めてはいるけど、
ちゃんと教習所へ通えば、人並み程度に運転くらいはできるはずだと自分では思うぞ。
「……ねえ、あたしが運転するのって、そんなに不安?」
納得できない舞美が訊くと、
「だって舞美ちゃんが車を運転するとさあ、きっと軽くアクセル踏んだだけでも『あれ!?』とか
言って、スピードが簡単に200キロぐらい出ちゃうんだよ?そしたら怖いじゃん」
真顔で答える愛理に、(何だその理由!?)とあきれながらも、愛理の真剣な表情に(もしかして、
自分ならありえるのかも……!?)と、舞美はつい黙り考えてしまう。
そんな舞美を見て、愛理が(冗談だよ)とでも言うように、いかにも可笑しそうに表情を崩した。
「……あー!」と怒って見せる舞美をなだめるように、
「車なんて、やっぱりいいよ。きっと値段も高いしさ。ね?」
愛理が、改めて穏やかな口調で言った。
値段、値段なら……。舞美は、その言葉に反応して、今度はすぐに口を開いた。
「値段ならさ、買うのはワゴン車じゃなくて、もう普通車でもいいんだから……」
瞬間的に出た言葉の意味を、二人は即座に理解し、噛み締めた。少しの沈黙が二人を包む。
以前は、『車を買うなら、七人全員が乗れるようにワゴン車を買わなきゃね』なんて、みんなで
きゃあきゃあと話をしていたのに、今では、普通車があれば全員が乗れてしまう。
今年の春に家を出た栞菜に続いて、ついこの前、えりかが自立のために家を出たからだ。
「……それにさ、他の子はちゃんと、お父さんとかお母さんが車で迎えに来てくれるんでしょ?」
舞美が訊いた。舞美は、えりかと最後に交わした約束を思い出していた。
自分が保護者として、責任を持って妹たちの面倒を見る。だから、えりは心配しないで、と。
それから舞美は、デビューを目指す愛理に、自分がしてあげられることは何かを考えた。
こうしてレッスンが終わると迎えに来て、必ず一緒に帰ろうと決めて、行動した。
そして、他のレッスン生が車で送り迎えをされているのなら、自分もそうしてあげたいな、と思った。
「うん。でも、みんなじゃないよ?うちらみたいに、電車で帰る子もいっぱいいるよ?」
愛理が答えた。「でも……」続く舞美の言葉を「大丈夫だよ!」愛理が遮る。
「舞美ちゃんが免許を取れる頃には、あたしもう絶対デビューしてるから!そしたら車なんか
無くても、マネージャーさんに付いてもらって、もう余裕で送り迎えしてもらうんだから!」
舞美の気持ちは理解してるよ?という風に、愛理は明るく言った。「それにさ……」愛理は
言葉を続けた。
「こうして二人で電車で帰るのも楽しいよ?家に帰るまで、舞美ちゃんを独り占めって感じで」
そう言うと、甘えるように横に座る舞美の腕に手を回してきた。
「もう……何言ってんの!?」
周りの視線を気にして、照れて言う舞美の顔を見上げて、「なーんてね」と言いながらも、
組んだ腕は離さず、力を抜いて絡めたまま、愛理は「くふふふ」と悪戯っぽく笑っている。
舞美の照れは、すぐに消えた。そこに、例え人数が減っても変わらない“家族”を感じたから。
「そうだ、今度の三者面談にも、ちゃんと行くんだからね」
舞美が思い出して言った。
「ああ、あたしの?……いいって言ってるのに。だって舞美ちゃんも学校があるでしょ?」
「でも、これも保護者としての責任だから……」
「大丈夫だってば。志望校だって変わらないんだし、特に話すことようなこともないからさ」
愛理が答える。
芸能の仕事を志し、デビューを目指す愛理は、同時に高校受験を控えた受験生でもあった。
「……志望校は、大丈夫なの?やっぱり変えないんだ?」
「うん、今のままなら、大丈夫じゃないかってさ」
「でも、レッスンに通いながら勉強するの、大変じゃない?」
愛理は、オーディションに合格して、レッスンに通うことが決まっても、それ以前から
希望していた志望校のランクを下げることを望まなかった。
きっと今夜も、疲れた体を食事とお風呂で癒したあとは、遅くまで机に向かうはずだ。
「大変だけどさ、オーディションに受かったときに、学業との両立もちゃんとしますって
事務所の人と約束したしね」
それでも心配そうな顔の舞美に、
「平気だよ。勉強だって嫌いじゃないし、レッスンだって楽しいから。ほら、好きなことだし、
……小さい頃からの夢だったから」
そう言うと、愛理は照れくさそうに微笑んだ。
「そうかあ……愛理は偉いね」
「何を何を、別に偉くなんかないって……!」 生きてたんだ!wwwじゃねーよ
バカにしてんのか
ドライブに行ったままの愛理と舞美の続きを早く書けよ http://japanese.joins.com/upload/images/2012/02/20120209115520-1.jpg
また、「私の夢は韓国の男性と結婚し韓国で生活すること。韓国の男性に
出会うのを助けてくれると信じている」と付け加えた。
この女性はハロプロのキュートに所属してた村上愛さんではないでしょうか?
「偉いってば、小さい頃からの夢に向かって努力して、毎日こうやって頑張ってるじゃん」
「いやいやいや……そんなに褒められると照れるじゃないかあ!」
愛理が組んでいた腕にぎゅっと力を込めて、寄り添うように頭をもたげてきた。
(……おや?今日の愛理はやけに甘えてくるな)と、舞美は少し不思議に思った。
「ううん、愛理は頑張ってるよ。それに比べたら、あたしなんかさ……」
舞美はあらためて言い、自分の小さい頃のことを思い出してみた。
「……そうだ、思い出した!あたしの小さい頃の夢なんて、『テレビの中に入ってみたい』だよ?」
「テレビの……中?」
「そう、テレビの中!……もう、何かバカみたいじゃない?」
愛理と違って、幼くてバカバカしい自分の夢に、舞美は少しあきれて言った。
しかし、そんな舞美の問いに、
「ううん……全然バカみたいとは思わないよ?」
愛理が真剣な顔で言い、
「そういえば、舞美ちゃん小っちゃい頃に言ってた気がするね。ねえ、その夢の話、詳しく教えて?」
そう舞美に訊き返した。
「うん。ある時、テレビを見てたらね、テレビの中の人がすごく楽しそうに見えたの」
「中の人?」
「そう、そこにいる歌手の人や、タレントさんとかが、すごく楽しそうに見えてさ。
……でね、ふと、あたしもテレビの中に入りたい、あの仲間に入りたい!って思ったんだ」
「へええ」
愛理が興味深そうに話を聞いてくれている。だが、
「でも、さ……」
――続く舞美の言葉はそこで途切れて、少しの沈黙が二人の間に流れた。
舞美は、瞬間的にそれからのことに思いを馳せる。
ある時から、えりかと二人で五人の妹たちの“親代わり”を務めざるを得なくなったこと。
自分も学校に通いながら、妹たちの日常の世話に追われる生活。
“保護者”としての責任を担い、その重圧と闘う日々。
そんな毎日を送るうちに、自分の小さい頃の夢なんて、いつの間にか忘れちゃってたな、と――。
「舞美ちゃん?」
愛理に声を掛けられ、「……ん!?」と舞美は我に返った。
「どうした?」
「ううん……何でもない」
舞美は、微笑みながら答える。
愛理の表情を見て、あらためて思い出す。日々の生活を、辛いと思ったことは無かった。
まず、みんなの幸せを第一に考えるのは当たり前だと思った。
そして、妹たちもみんな、そう考える子たちばかりだったから。
舞美は、それを実感していた。
そうして、支え合うことで、あたし達は今日まで生きてこれたんだ、と。
それに……。
「……やっぱり、自分のせいだよ」
「え……?」
舞美がそっと呟やくと、愛理が不思議そうに訊き返した。
毎日が大変だったのは、きっとみんなも同じはず。それでも、えりかはモデル、愛理は歌手と、
小さい頃からの夢に向かって努力して、その夢を叶えようとしている。
だから、自分だけが夢を忘れてしまったなんてのは言い訳に過ぎないんだ。
「……ううん、頑張り屋さんの愛理には関係無い話だよ。そうだよ、自分のせいなんだから」
そう言って、舞美はこの話をこれで終わらせようとした。
しかし、
「自分のせい、か……」
愛理が正面を向き、そう小さく呟いた。
「え……愛理?」
「ううん…………何でもない」
愛理はそう答えたが、自分の腕に回されていた手から、
急に力が抜けていったのに舞美は気付いていた。
「どうした愛理、何かあった?」
しかし、今度は答えが返って来ない。愛理は、ただ正面を見つめて、口を閉ざしている。
全く予想をしていなかった愛理の反応に、舞美は驚いた。そして、
「…………あたしさ、ちっとも頑張り屋さんじゃないよ」
愛理は、それだけを言うと、俯き、再び黙ってしまった。
「愛理……」
舞美は、そんな愛理の様子に、それ以上立ち入ったことを訊くことが出来なくなってしまった。
それからしばらく、沈黙したままの時間が続き、電車は、二人が降りる駅へと到着した。
電車を降りた二人は、黙ったままホームを歩き、改札を抜ける。
そして、家路を急ぐ多くの人達と一緒に、夜の駅前通りに出た。
駅前から連なる商店街は、まだ開いている店のネオンと、店内から漏れる灯りで通りも明るく、
人の往来もまだ絶えてはいない。
駅から家までは、数通りの道順があったが、帰りが遅くなった時には、
安心して歩けるこの道を通ると二人は決めていた。
ここから自宅まで、十分ちょっと。いつもの通り道を、二人は並んで歩き出す。
「今日も遅くなっちゃったねー。お腹も空いたし、早く帰ろっか」
舞美から、努めて明るく話しかけてみたが、「……うん」と頷く愛理の返事は小さく、
やはり元気が無いようだ。
心配する舞美が、(さて、どうしようか……)と思案していると、
「……舞美ちゃん」
今度は愛理の方から話しかけてきた。
「ん、なに?」
ようやく自分の方から話してくれたな、と喜ぶ舞美の腕に、再び愛理が自分の腕を回してきた。
(え……!?)と、突然のことに舞美が驚いていると、
「今日は……遠回りして帰ってもいい?」
「遠回り?」
「うん。こっちから」
愛理が、組んだ腕に力を込めて、通りから外れる狭い道へと舞美を誘った。
そこは、人通りも少ない、少しほの暗い裏通りで、普段は夜なら絶対に通らない道だ。
「でも、こっちの道は、さ……」
少し戸惑う舞美に、
「二人いっしょだから平気だよ。……ねえ舞美ちゃん、駄目かな?」
再び愛理が訊いた。
いつもと違う愛理の様子に、(きっと、何か理由があるのかな)と舞美は思い、
「……そんなに言うなら、別に構わないよ」
と答えると「ありがと……」と愛理が小さく言った。
身を寄せあうように腕を組んだ二人は、暗く静かな道へと入る。
少し歩いてから、
「あのね……」
愛理の方から話しかけてきた。
先に口を開いてくれたことに安堵し、舞美は「うん」と頷いて話を訊く。
「……実はね、今日のダンスレッスン、散々だったんだ」
「え……!?」
「あたし一人だけ、他のみんなについていけなくてさ、先生にたくさん怒られて、
みんなに迷惑をかけて、それでちょっと落ち込んじゃって……」
愛理が静かな口調で言った。
ダンスも「ラクショー」と答え、いつになく明るい調子でいた、
さっきまでの愛理の様子を思い出して舞美は驚く。
「自分では精一杯頑張ってるつもりなんだけど、できなくて。もう、すっごい悔しくてさ……」
愛理が話を続けた。
「泣きそうになったんだけど、絶対にみんなの前では泣くもんかーって思って。
泣くときは、家に帰って一人になったときに……お風呂の中でいっぱい泣くぞって、
ずーっと我慢してたんだけどね……」
愛理のテンションが普段より高く、また妙に甘えてきた理由がわかった気がした。
きっと、落ち込んでるのを悟られまいと、いろいろ無理をしてたんだな、と――。
「でも、あたしのせいで他のみんなに迷惑かけちゃったこと、
舞美ちゃんに『自分のせいだ』って言われて思い出しちゃって……」
「あ、愛理、違うの。あれはね……」
「……ごめんね。我慢しきれなくなったみたい。
だから、家に帰るまで、ちょっと遠回りさせて……」
愛理の言葉が、そこで途切れた。舞美と組んだ腕をギュツと引き寄せ、肩の辺りに顔を預ける。
愛理が、人の通らない道を選んだ理由もわかった。
堪えきれずに「うぇえ……」と小さな泣き声を上げ始めた愛理に、舞美がしてあげられることは、
同じく力を込めて愛理の身を引き寄せて、歩みの速度を遅めて、少しでも多くの時間を
思いきり泣かせてあげることしかなかった。
しばらく泣いて、気持ちも落ち着いたのか、続いていた愛理の泣き声が
「ぐすん……ぐすん」と鼻をすする音に変わった。
「愛理……?」
もう大丈夫?という意味で、舞美が優しく話しかけると、
「……ごめんね舞美ちゃん、こんなの、今日だけだから」
愛理が言って、頬を伝った涙を手の甲で拭った。
「ほら愛理、ハンカチ貸してあげるから……」
そう言って、ポケットに手を入れた舞美に、
「大丈夫、持ってるから」
愛理が、自分のポケットからハンカチを取り出して、頬を拭きながらクスッと笑った。
「ん?」と、その笑みを不思議に思った舞美に、
「だって、さっきと反対なんだもん」
愛理が言い、「あー」思い出して舞美も笑った。
一緒に笑いながら、笑顔が戻った愛理に、舞美は少しホッとする。
角を一つ曲がり、別の通りへ出ると、二人が帰る家が見えてきた。
「ねえ、舞美ちゃん」
愛理が話しかけた。
「ん、なあに?」
「さっきさ、舞美ちゃんが言ってたとおりなんだよね。『全部、自分のせい』なんだって……」
「愛理、違うの。あれはあたしのことで……」
舞美の言葉を、「ううん」愛理が遮る。
「……出来ないことがあったら、それは誰のせいでもない、やっぱり自分のせいなんだよ」
「愛理……」
「だから、泣いてなんかいないで、もっともっと頑張らなきゃいけないんだ。……だって、
せっかく舞美ちゃんが『頑張り屋さん』って褒めてくれたのにさ」
愛理が、舞美の顔を覗きこみ、少し照れ臭そうに感謝の言葉を述べた。そして、
「ただいまー!」
玄関の扉を開ける頃には、愛理はいつもの愛理に戻っていた。
しかし、愛理の言葉に力強さが増すのとは逆に、舞美の表情が曇っていく。
あたしは、いったい何をやってるんだろう。
本当に頑張らなきゃいけないのは、あたしの方なのに、
いつも映画館の暗闇の中に、逃げてばっかりで……。
愛理より学年が三つ上の舞美は、現在高校三年生、愛理と同じ受験生――。
この秋、進路の決断を迫られているのは、実は舞美の方だった。
――――――――――――――――――――――――――――
その翌週、学校を終えた舞美は、制服姿のままで、映画館が入るビルのフロアーにいた。
この日は、また愛理のレッスンがある日。
朝、家を出るときには、「今日はダンスの日だよ」と明るく言っていた愛理。
きっと今頃は、人一倍の汗をかき、苦手なダンスに挑んでいるはずだ。
舞美は、劇場前の通路から、チケット売り場や売店が並ぶロビーを眺める。
でも、もう、しばらく、映画は観ないと決めていた。
愛理が頑張っているのに、自分ばかりが現実逃避をしている訳にはいかないと思ったから――。
それなのに、何故また映画館の前に来てしまったんだろう。
(つい、いつもの癖だな……)と舞美は反省をして、その場に立ち、進路のことを考えてみる。
あたしは、何がしたいんだろう?
進学できる学力はあると言われている。しかし、『とりあえず進学』という訳にはいかない。
舞美には、四人の妹たちがいる。
早貴、愛理、千聖、マイ。
この先、誰が大学へ行きたいと言うかわからない。
全員が、大学へ進学できる経済的な余裕はあるのか?と考えると、『ならば自分は……』と思う。
それなら、就職――。あたしは、何になりたいんだろうと再び考える。
『テレビの中に入りたい』なんてバカなことを思った小さい頃。
それ以前も、それからも、なりたいと思ったものは沢山あったはずなのに、何も考えつかない。
舞美の視線が、劇場内の、スクリーンへと繋がる暗い入り口へと向く。
将来の事を考えるほど、悩めば悩むほど、その心が映画館の暗闇に吸い込まれていこうとする。
(……いけない!)と頭を振り、振り返って劇場の入り口に背を向ける。
とりあえずここを離れようと歩き始めたときに、制服のポケットに入れていた
携帯電話の着信音が鳴った。
ディスプレイには、登録されていた携帯番号と『早貴』の文字が表示されている。
「もしもし?」
舞美が携帯に出ると、
『……ねえちょっと舞美ちゃん、どこ行くの!?』
「え!?」
早貴の言葉に、舞美は思わず辺りを見渡たす。
「あー!!」舞美は、片手に携帯を持ち、もう片方の手を大きく振って、こっちに向かって
歩いてくる早貴の姿を見つけた。早貴だけではない。その両脇には千聖とマイもいる。
三人は、舞美と同じく学校帰りにそのままここへ来たらしく、学校の制服姿のままだ。
舞美の側まできた早貴は、携帯を切って「やっほ!」と明るく話しかけてきた。
早貴の横では、マイがニコニコと笑っている。千聖が、何故か一人だけ浮かない表情でいた。
「……どうしたの、みんな!?」
自分の携帯を仕舞って、舞美が訊ねると、
「舞美ちゃんさあ、愛理を待ってる間、いつも一人で映画観てるんでしょ?」
早貴が、舞美の顔を覗きこんで言った。
「え!?うん。でも、今日はさ……」
「ほら、もう舞美ちゃんばっかりズルいじゃん?」
マイが、舞美の言葉を途中で遮って言った。
「……だからね、今日はみんなで一緒に映画を観て、
ついでだから御飯も食べて帰ろうって話になって。ねえ、千聖?」
マイが千聖に同意を求めると、
「うん……」
千聖は、何かを納得していない顔で小さく返事をした。
マイと早貴の二人は、そんな千聖の表情を気に留める様子もなく笑顔のままだ。
舞美は、その光景を少し不思議に思った。
「映画は、楽しみだけどさあ、でもみんなは……」
千聖が口を開くと、
「ね、みんな映画楽しみじゃん?で、その後はついでにごはんだから!」
マイが、大きな声で千聖の言葉を遮った。
「うん。だから舞美ちゃんもさ」と早貴が言って、舞美が背を向けた劇場の入り口を指差した。
しかし、
「……ごめんね、あたしは、しばらく映画は観ないって決めたんだ。
だから、今日は三人だけで観てきなよ」
舞美が言うと、「えー!?」と、早貴とマイが声を揃えて言った。
「ねえ舞美ちゃん、何で?」
早貴に訊かれた。けれども、舞美は返事に困ってしまう。
(愛理が、今もレッスンで頑張っているから……)
そう答えて、それが映画を観ない理由として、すぐに理解してもらえるとは思えない。
かといって、自分が、単に現実逃避のために映画館に通っていたなんて説明は、
恥ずかしくてなるべくしたくないなと思う。
「それは、さ……」
舞美が言葉に詰まっていると、
「ねえ、せっかく愛理が、みんなで一緒に映画観ようねって言ってたのにさ」
マイが不満げに言った。
(……ん、今なんて言った?)
突然の言葉をすぐに理解できずに、舞美が不思議な顔をしていると、
「あー、来たよー。こっちこっち!」
早貴が、誰かに向かって手を振り始めた。舞美は、その方向へと振り向いて、
「……え、愛理!?」
驚きの声を上げた。
みんなの前まで歩いて来た制服姿の愛理は、
「ごめんね、ちょっと遅くなっちゃって」
と、早貴たち三人に言ったあと、舞美の方を向いて照れくさそうな顔を見せた。
「……愛理?なんで?今日、レッスンは?」
先週の、愛理の様子を思い出し、まだ信じられないという表情の舞美に、
「お休みしちゃった!嘘ついてサボるの嫌だから、レッスン場に行って先生に直接話してきたの。
家族の大事な用事ができちゃったから、今日はスイマセンって」
愛理は、そう言って微笑んだ後、舞美にだけ何かを伝えるように、
こっそりとウインクをしてみせた。「え!?」と、そのウインクの意図が掴めず、
きょとんとしている舞美に、
「ねえねえ、実はあたし、これが観たいなーと思ってて!」
愛理が、上映中の作品ポスターが並んだ劇場前のロビーで、
拳銃を持った女性が真っ直ぐの姿勢で立っている一枚のポスターを指差した。
「あ!」
それは、舞美が予告編を観て面白そうだと思った洋画『アップスタンディング』だ。
愛理にも説得されて、舞美は、結局みんなと一緒に映画館に入ることになった。
何の映画を観るのかは、上映開始の時間がちょうど合うこともあり、
愛理が観たいと言ったアクション映画『アップスタンディング』に、さほど迷うことなく決まった。
五人で横並びに座れる席を取り、舞美たちは場内へ入る。大きなスクリーンと向かい合う。
『しばらく映画は観ない』と言ったばかりなのに、この場所へ座ると舞美は、
自分がとてもわくわくしていることに気が付いた。
――場内の照明が暗くなる瞬間。
観客の意識が日常から離れ、目の前のスクリーンが非日常の世界への入り口となるとき、
これから体験することになる未知の世界への期待に、舞美の胸は自然と高まっていく。
「……ねえ、愛理」
舞美が、隣に座る愛理に小声で話し掛けた。「ん?」という顔で、愛理が舞美の方を向いた。
「ありがとうね」
「え、何が?」
「……ううん、何でもない。一つ、わかっただけ」
舞美は、(自分は、もしかしたら本当に映画が好きなのかも……)と
気付かせてくれた愛理に礼を言うと、不思議そうな顔の愛理にニッコリと笑いかけてから、
正面を向き直った。そして、(さあ、映画を楽しむぞ!)と、意識をスクリーンに集中させた。
数本の予告編を経て始まった『アップスタンディング』は、親しい人物に騙され、
全てを失った女性『リサ』が、闇の世界に身を落としていきながらも、
高潔な精神だけは失うことなく、そこから立ち上がり、復讐を誓うというストーリーだった。
物語の主人公『リサ』を演じたのは、黒い髪を無造作なショートボブにした白人女性で、
体は細身だが華奢ではなく、鍛えられ、引き締められた体躯には力強さを漂わせ、
それでいて、スラリと伸びた長い手足のしなやかな動きに、女性らしい美しさを感じさせた。
『リサ』役の女性は、ハードなアクションシーンの多くを、自らがこなしているようだった。
スクリーンの中を縦横無尽に舞い、闘う彼女は、強く、そして美しかった。
そのラストシーンで、全てを終えて、毅然として立つ『リサ』の姿に、舞美は魅了されていた。
「面白かったねー!」
長いエンドロールを終えて真っ先にそう言ったのは、意外にも、
映画館に入るまで何だか元気の無かった千聖だった。
この映画が観たいと言っていた愛理が、即座に「うん!」と頷いた。
照明が点いても、場内は、まだ映画の心地よい余韻が溢れているようで
マイと早貴も、「面白かった!」「カッコよかったね!」と、満足そうな表情で言った。もちろん舞美も、
「うん、すごくカッコよかった!」
まだまだ、興奮が冷めやらぬといった様子で答えた。
舞美たち五人は、高揚した気分のまま劇場を出て、明るいロビーを歩く。
劇場の外は、もう現実の世界のはずなのに、まだ半分は映画の中にいるような不思議な気分がした。
――面白かった映画を観終えて映画館を出たときは、いつも感じることだ。
自分の中にまだ、映画の主人公がいて、勇気をくれているような気がして、
(ああ、この感覚も、自分は好きなんだな)と舞美は思った。
「わぁ、もうこんな時間だね」
早貴が、自分の腕時計を見てみんなに言った。
「そうだ、みんなでごはん食べるって言ったじゃん。ねえ、ごはん!」
マイが思い出したように言うと、
「下の階にさ、レストランがいっぱいあったよ。そこは?」
愛理がみんなに訊いた。
愛理の意見に異論は出ずに、「行こう行こう!」とマイがみんなを促して、
舞美たち五人はレストランへと向かった。
エスカレーターを下っていくと、多くの飲食店が軒を連ねるフロアへと着いた。
歩いてみると、ファミリー向けのレストランや、和食、洋食、中華料理など、
たくさんのお店が並んでいて、どこへ入ろうか迷ってしまう。それで、
「みんなは何が食べたい?」
舞美が訊くと、
「マイはねえ、チャーハン以外なら何でもいい!」
マイが威勢よく答えた。
それと同時に、早貴と愛理が「あ!」という顔になり、
「ほら、やっぱりそうじゃんかー!」
突然、千聖が怒ったように言った。
「もう、千聖の作る御飯が嫌ならさあ、最初からそう言えばいいじゃん!」
声を荒げる千聖に、(何だ……!?)と舞美が驚いていると、
「嫌じゃないってば!嫌じゃないけどさあ、いくら美味しいって誉められたからって、
毎回毎回チャーハンじゃ飽きるっつーの!」
マイが、千聖に言い返した。
「だから、具とか味付けとか、ちゃんと考えて毎回替えてるじゃん!」
「いくら替えてもチャーハンはチャーハンだし。もう、マイはチャーハン以外が食べたいんだって!」
言い争いを始めた千聖とマイの間に、慌てて早貴が「まあまあまあまあ」と割って入る。
愛理が、呆気にとられていた舞美の方を向き、困ったような笑みを浮かべた。
(……あ!)と、舞美も気が付いた。
連呼されていた“チャーハン”という言葉に、舞美も思い当たる節があった。
料理が得意で、自らが進んで家族の料理番を務めていた長女えりかが家を出たことで、
晩御飯の準備は、必然的に残った五人が交代で務めることになった。
最初はみんな「レパートリーが続かないよ」と不安がっていたが、悪戦苦闘をしながらも、
全員で交代しながら、なんとか御飯を作っていった。
やっぱりみんな女の子、キッチンに向かうことや、手料理の感想を聞けるのは楽しいようで、
特に、千聖が作ったチャーハンが「美味しい!」とみんなに好評を博して、千聖も自信をつけた。
しかし、愛理がレッスンに通い始め、それを舞美が迎えにいくようになると、
二人の帰りが遅くなる日が増えて、さらに早貴が、友人に頼まれて放課後にカフェでのアルバイトを
始めたことで、晩御飯の負担が、千聖とマイの二人に大きくのし掛かるようになってしまった。
千聖が「気にすんな、任せろ!」と言ってくれたので、「ごめんね?」「じゃあ……」と、
みんながそれに甘えてしまったのだが(マイまでも!)、それから、
晩御飯の食卓にチャーハンが並ぶ率が、異常に増えてしまっていた。
みんな、自分の都合で千聖に任せてしまっている負い目があるので、あまり強く文句も言えずに、
舞美も先週「また、アレかあ……」と、つい愛理にコボしてしまったところだ。
「実はね……」
愛理が、舞美に向かって口を開いた。
「……マイちゃんがね、もうチャーハンはヤだから、今日は外食したいって言って、
みんなで映画を観たいってことにすれば帰りに外食ができるって……」
「あー、愛理、何でそれバラすのさ!?」
マイが、愛理に怒り、
「いやいやいや、マイちゃんが自分で先にチャーハンって言ったんだし!」
愛理に言い返された。
「で、マイちゃんがさ……」
早貴が、愛理の話を引き継ぎ舞美に言った。
「……自分たちが言っても、きっと千聖は疑うから、『愛理が、たまにはみんなで映画が観たいって
言ってたことにしよう』って言って、それで愛理に連絡して……」
「ちょっと待って、じゃあ、そのために愛理の大事なレッスン休ませたの?」
舞美があきれて言うと、
「違うって!」
マイが、慌てて言った。
「愛理は本当に来なくていいからさ、『やっぱりレッスン抜けられなかった』って言って、
後で口裏だけ合わせてもらおうと思って、それで連絡したら、愛理が『来る』って……」
それを聞き、舞美が驚いて愛理を見ると、
「……ごめんね舞美ちゃん。ちょうど前から観たいなーって思ってた映画もあったし、
最近ずっと忙しかったから、本当にたまにはみんなで映画もいいかなって……」
愛理の眉が、申し訳なさそうにハの字になった。
(あ……!)舞美は、自分が愛理を責めてしまったような気がして神妙な面持ちになる。
怒っていたはずの千聖が、二人の表情に気付いて心配気な顔をした。
「でも……」
愛理が続けて言った。
眉毛のハの字はそのままだが、今度は目尻も一緒に下がり、
「来てよかったー!映画はやっぱり面白かったしさ、なんかもう、すかーっとしちゃった!」
両腕をぴんと上に伸ばして、思いきりの笑顔で言った。
「――誘ってくれてさあ、本当にありがとうね。次のレッスンは、もう倍以上頑張れそうだから!」
愛理が、みんなに礼を言った。
その明るい表情と言葉に、千聖の頬も一緒に緩んでしまっている。
「そう、よかった」舞美がほっと胸を撫で下ろして言うと、
「……ね、やっぱ今日は映画観に来てよかったじゃん?」
マイが、自分が何か手柄を立てたかのように自慢気に、話に割り込んできた。
「ちょっと!」
真顔に戻った千聖が、マイに向かって言うと、
「ごめんね千聖」
事の顛末を見守っていた早貴が、申し訳なさそうに言った。
「……許せない」千聖が厳しい顔で答えると、「えええ……!?」と驚いている早貴に、
「ううん、チャーハンしかうまく作れない自分を許せない」千聖がすぐに付け加えて言った。
「くそお、今に見てろお。絶対に料理上手になって、もっと何でも作れるようになってやるし。
そして、何を作っても『美味しい』って言われるようになってやるんだから」
悔しそうに言う千聖の背中を、「偉いっ!」と舞美が叩き、バチンという大きな音が辺りに響いた。
「痛ぁい!ちょっと舞美ちゃん何すんのさ!?」
「あ、ごめんよちっさー。そう考えられる千聖は偉いなあと思って、つい……」
舞美が、何ら悪びれることなく答えると、
「ううん、本当はずっと『みんなで映画が観たいなんて、口実じゃないか』と思って
ムカついてたんだけどさ……映画はたしかに面白かったし」
千聖が、真面目な顔で言った。
「――なんかね、あの主人公を思い出したら、自分がやれることは頑張らなきゃなって思ってさ」
「そうかあ」
(……ああ、きっと千聖の中にも、まだ映画の主人公『リサ』がいるんだ)と舞美は気が付いた。
千聖の横で、「うんうん」と笑顔で頷いている愛理の中にも――。
やっぱり、映画はいいものなんだな、と舞美はあらためて思った。
映画はきっと、素敵な現実逃避なんだ。
観終えた人に、元気や感動を、現実に立ち向かう勇気を与えてくれる。
いつもいつも、映画館の中に逃げこんでいてはいけないけれど、自分の進路が無事に決まったら、
また映画館に通おうと舞美は思った。
千聖の心意気に、マイも「ごめんよ千聖。ウチらも千聖に任せきりにしないで、
これからちゃんとするからさ」と素直に謝り、この場は収まった。
「……じゃあ、お腹空いたし!」千聖が笑顔で言って、五人で食べたいものを言いあった。
結局、五人分の映画代を使った後なので、晩御飯代はなるべく節約しようよという事になり、
リーズナブルな料金設定のファミリー向けレストランに入ることになった。
五人で座れるテーブル席に着くと、思い思いに食べたいものを注文する。
料理が来るまでの間、始まったお喋りの内容は、自然と映画の話になった。
「リサ、カッコよかったねー!」
愛理が、まだ興奮している様子で言うと、「うん!」舞美が、心から賛同をして頷いた。
「あたしさ、この女優さんの映画初めて観たけど、本当にカッコよかったね!」
映画の中の勇姿を思い出して、舞美が言うと、
「何言ってんの、舞美ちゃん?」
愛理が不思議な顔で言った。
「え……何って、何が?」
「舞美ちゃんさあ、この人の映画、先週観たばっかりじゃないか」
「……先週?」
舞美が訊き返す。
「ほら、『EVER LOVE』観てたじゃん。今日観た映画と、主演の女優さんは同じ人だよ?」
……あ、『EVER LOVE』かあ。そうか、『アップスタンディング』と『EVER LOVE』が……。
言われても、すぐにはピンとこなかった。先週、観た映画をまず思い出そうと思った。
そうだ、とても切ない恋愛映画に大泣きをさせられたんだ。
ブロンドのロングヘアーが綺麗な女優さんが、とっても可愛くて儚げで……。
その『EVER LOVE』と、『アップスタンディング』、主演の女優さんは、同じ人なんだあ…………。
「……ええええっ!?」
舞美は驚きの声を上げた。
「嘘嘘嘘……!?だってだって、イメージが全然違うし!」
「嘘じゃないよ」
驚いている舞美の様子が可笑しいのか、愛理が、くすりと笑って答えた。
「この映画の役作りのために体を鍛えて、髪の毛も短く切って黒に染めたんだって。
情報番組の特集で、インタビューで言ってたよ。
あたしねえ、それを見て『この映画が観てみたいな』って思ったんだもん」
愛理の話に、千聖とマイが「へええ」と感心している。
「……でも、『EVER LOVE』を観たのは、つい先週なのに」
舞美が言うと、
「あれねえ、口コミで人気が出てロングラン上映してたから、撮影とかはかなり前の映画だよ」
早貴が言い、愛理が「うん」と頷いて舞美を見た。
まだ信じられないという表情の舞美に、
「女優さんって、すごいよね」
愛理が言うと、舞美以外のみんなが「うん」と感心して頷いた。
「……うん」
少し遅れて、舞美も頷く。
作品によって、全然違うイメージを作る……、女優さんは、本当にすごいなと舞美も思った。
そうかあ、映画の中では、女優さんはどんなものにもなれるのか……。
「……あ!」
「どうしたの舞美ちゃん?」
突然、声を出した舞美に、愛理が訊いた。
舞美は答えない。
突然、自分の頭に浮かんだ考えを整理するので精一杯になったから。
自分が、映画館に通った理由。
自分が進路に迷ったときに、何故、映画館に惹かれていたのか、わかった気がした。
ここが、何にでもなれる場所だからだ――。
そう言えば、小さい頃の夢の話を愛理にしたっけ。
あの頃の夢は、叶わなかったけれども。
けれども、今度は……。
「……あたし、もしかしたら、スクリーンの中に入りたいのかもしれない」
誰に言うでもなく、舞美の口から出た言葉に、今度は舞美以外のみんなが、
「えええ!?」と驚いた顔になった。
-------------
翌週、愛理がレッスンの日。
舞美は、映画館には入らず、代わりに“ある場所”へ寄ってから愛理を迎えに行った。
夜になり、そろそろ愛理のレッスンも終わる頃に、レッスン場が入ったビルの前に着く。
入口の前で、愛理が出てくるのを待った。
ビルの奥から、レッスン生だと思われる数人の若い女の子が歩いてくるのが見えた。
その子達がビルから出てきたときに、
「愛理!」
その中の一人に、愛理の姿を見つけて、舞美は声を掛けた。
「…………舞美ちゃん!?」
愛理が、今朝とは違う舞美の姿に、驚きの声を上げた。
「舞美ちゃん、その髪の毛!?」
「えへへへ、切ってきちゃった」
美容院に寄り、背中まで伸びていた長い髪の毛を、バッサリと切ってショートヘアーにした舞美は、予想通りだった愛理の反応に、舞美は思わず(してやったり)の笑顔になる。そして、
「……どう、短いのも似合うかな?」
心配していたことを、今度は照れくさそうに愛理に訊いた。
「へええ……」と、ずっと驚いていた愛理の表情が一転して、
「……うん!舞美ちゃん、ショートもすごく可愛いよ!」
弾けるような笑顔で答えた。
「ありがと!」と、舞美も笑みを浮かべる。
「……でもさあ、何で急にショートに?」
愛理が訊いた。
「この髪型だとさ、可愛いだけじゃなくて……
これでスーツを着たら、大人っぽく見えると思わない?」
「え……スーツ?」
「うん。今度の愛理の三者面談には、それで行こうと思って。
コンセプトは『クールでカッコいいお姉さん』ね。どう?」
今度の問いに、「……」愛理は黙ってしまって答えない。何かを考えているようだ。
しかし、すぐに「あー!」と口を開いた。
「舞美ちゃん、リサみたいなんだ!」
そう言って微笑む愛理に、舞美は照れて笑いながらも、
「あははは。これからは、いろんな自分になってみたいなって思って……」
そう答えて、(……これは、その第一歩)心の中で、付け加える。
そう、目指すは、女優。
目標は、あの場所――、
大きな大きなスクリーンの中。
もう、何も迷うことはない。誰のせいにもしない。
決意を込めて、毅然として立つ。それだけで、何だかとても気分がいい。
この感覚は自分に合ってるなと思えた。舞美には、それが少し嬉しかった。
お話の時系列としては
『アップスタンディング』
↓
『キュートなサンタがやってきた』
↓
『会いたいのに、会いたいだけ』
の順で。
もう古い話だけど、書きたかったので最後まで書かせてもらいました。
次作もやりたいので、最後は久々に上げていきます。
では。
>>166
読み返したつもりなのに、つまんないミスがある
>美容院に寄り、背中まで伸びていた長い髪の毛を、バッサリと切ってショートヘアーにした舞美は、予想通りだった愛理の反応に、
>舞美は思わず(してやったり)の笑顔になる。そして、
↓
美容院に寄り、背中まで伸びていた長い髪の毛を、バッサリと切ってショートヘアーにした舞美は、予想通りだった愛理の反応に、
思わず(してやったり)の笑顔になる。そして、
ですね。大事な最終回に・・・
まあいいや。 次、早く書きたくて練ってるんだけど煮詰まったままだ
主役は『愛理』 テーマは『探し物』 キーパーツは『写真』
導入部もラストの〆もイメージできてるのに、中身のパーツが足りない
以前のように、ひとネタ思いついて軽く短編みたいなことが出来なくなっちゃったな
でもまあスレ落ちない限りまた帰ってきます
下手でも読み手が無くとも書くの好きです 原点回帰して、最初期のテイストでしばらく短編を続けたいと思います。
長いお話に入っちゃうと、数ヶ月かかりきりになって他が書けなくなっちゃうので、今のうちに。
「あー、どうしよう千聖、雨降ってるよ」
買い物を終えて、出て来たスーパーマーケットの店先で、空を見上げて早貴が言った。
「うわ!すごい降りじゃん」
早貴の隣で、千聖が言った
七月の中ごろ、ある日曜日のこと、夕方。
まだ梅雨は明けていなかったけれど、朝からとても天気がよかったし、
家から近所のスーパーへ行くだけだったので、二人とも傘を持っていなかった。
「でもさあ、これ夕立だよ。きっとすぐ止むから」
千聖が言うと、早貴が「止むかなあ……」と、黒くて重そうな雲を見上げて不安気に答える。
雨は、依然として大きな雨音を立て、一向に止む気配が無い。
「じゃあ走って帰ろうよ」
千聖が言うと、
「えー!?荷物だって持ってるし、これだけ降ってるから、
家に着くまでにはビチャビチャになっちゃうよ」
早貴と千聖は、片手にひとつずつ大きなエコバッグを下げていたし、
近所といっても、普通に歩いて十分程度の距離がある。
「でも千聖はさあ、少し濡れるくらい、別に気にしないよ?」
「少しじゃ済まないよ!これ結構降ってるってば」
涼しい顔で言う千聖に、早貴があきれて言った。
早貴が訊くと「うん」と千聖が頷く。
「じゃあ、もう少し待っててみようよ。止まなくても、小降りになるかもしれないし。
そしたら、歩いて帰ろう」
「そうする?」
「うん、そうしようよ」
少し濡れるくらいは仕方ない、と早貴も覚悟を決めた。
二人は、他のお客さんの邪魔にならないように、お店の出入口から、
雨が当たらない横の軒先へと移動した。
「あ!でもアイスいっぱい買ったじゃん。溶けちゃわない?」
思い出して千聖が言うと、
「蓋がついてるから、帰ってまた冷凍庫で冷やせば大丈夫だよ」
「でも、棒アイスも買ったじゃん。あれって溶けると崩れちゃわない?」
「あー、そっかあ……。じゃあ、棒アイスだけ食べちゃおうか」
二人は、バッグからアイスキャンデーを二本取り出し、それにかじりついた。
キャンデーを半分ほど食べ終えたところで、
「……ねえ」
早貴から口を開いた。
「なあに?」
「……舞美ちゃんの今日のスケジュールって、何だって言ってたっけ?」
早貴が、姉妹で一番の“雨女”である舞美の名前を出した。
「舞美ちゃんの?」
「うん、もしかして今日はロケかなって?」
「あー、そうだったら雨も降るわあ」
千聖が「いかにも」という感じで頷いた。
女優としてすでにデビューしていた舞美は、地道にキャリアを重ねていたが、
目標としている銀幕への主演デビューはまだ遠かった。
それよりも、その“雨女”ぶりが、“ロケ潰し女優”として、
業界では早くも有名になってしまっていた。
「それじゃあ止まないかもよ?やっぱ、走って帰る?」
千聖が言った。
アイスを食べ終えてしまったが、雨脚が弱まる気配は感じられない。
「……うん」早貴は、止まない雨を見つめながら、気の無い返事をする。
そして、
「あ!」
早貴が、何かを思い出したかのように言った。
「待って、家にたしかマイちゃんがいたよね?」
「うん。リビングで寝そべってた」
「マイちゃんに電話して、傘を持ってきてもらおうよ」
早貴の提案に、
「でもさあ、あのメンドくさがりが、わざわざ雨の中、傘なんか持ってきてくれるかな?」
千聖が、思っている素直な疑問を口にした。
実際、今日も早貴と千聖が買い物に出かけるときに、「一緒に行く?」と訊いてみると
「メンドくさいからヤだ」と答えた子だ。
「大丈夫だよ!電話して、頼んでみるから」
マイが、必ず来てくれる確信があるかのように、自信ありげに早貴が言うと、
携帯電話を取り出して、マイの携帯番号を呼び出した。
『もしもしィ?』
数コールの後に、早貴の携帯からマイの気だるそうな声が聴こえてきた。
「もしもしマイちゃん?早貴だけどさあ……」
『あ、なっきぃ、どしたの?』
「ねえ、ちょっと窓の外見てよ」
『窓の外?』
「ほら、すっごい雨降ってるじゃん。でさあ、ウチらは傘を持ってきてない訳よ」
『うん……それで?』
「傘を二本持って、スーパーまで迎えに来てくれると嬉しいなあとか思ったんだけど……」
早貴は、できるだけ下手に出て頼んでみたつもりだったが、返ってきた返事は、
『えー、やだよおメンドくさい!』
千聖が予想した通りのものだった。
「そんなこと言わないでさあ、マイちゃんお願い!」
通話相手には見えないのに、早貴はつい携帯を持っていない方の手で拝みながら、再び頼みこむ。 >>175
文の頭に余計なコピぺミスがありますね
×早貴が訊くと「うん」と千聖が頷く。
この一文いらないです。読んでる人いたらすいません。 元テキスト読み直してみたら、一文余計なんじゃなくて
その前の一文をコピーし忘れてました
何かもうgdgdだ・・・
もう一回(2)だけ貼り直します
「……今日、すぐに傷むようなものは買ってないよね?」
早貴が訊くと「うん」と千聖が頷く。
「じゃあ、もう少し待っててみようよ。止まなくても、小降りになるかもしれないし。
そしたら、歩いて帰ろう」
「そうする?」
「うん、そうしようよ」
少し濡れるくらいは仕方ない、と早貴も覚悟を決めた。
二人は、他のお客さんの邪魔にならないように、お店の出入口から、
雨が当たらない横の軒先へと移動した。
「あ!でもアイスいっぱい買ったじゃん。溶けちゃわない?」
思い出して千聖が言うと、
「蓋がついてるから、帰ってまた冷凍庫で冷やせば大丈夫だよ」
「でも、棒アイスも買ったじゃん。あれって溶けると崩れちゃわない?」
「あー、そっかあ……。じゃあ、棒アイスだけ食べちゃおうか」
二人は、バッグからアイスキャンデーを二本取り出し、それにかじりついた。
キャンデーを半分ほど食べ終えたところで、
「……ねえ」
早貴から口を開いた。
「なあに?」
「……舞美ちゃんの今日のスケジュールって、何だって言ってたっけ?」
早貴が、姉妹で一番の“雨女”である舞美の名前を出した。 人がいるなら続き書きますか
とっくに梅雨も終わっちゃったけど・・
書き始めるからもうちょっと待ってて
実際、今日も早貴と千聖が買い物に出かけるときに、「一緒に行く?」と訊いてみると
「メンドくさいからヤだ」と答えた子だ。
「ちゃんと頼めば大丈夫だよ!ちょっと電話してみるから」
まるで『マイは、必ず来てくれる!』という確信があるかのように自信ありげに、
早貴は携帯電話を取り出して、マイの携帯番号を呼び出した。数コールの後に、
『もしもしィ?』マイの気だるそうな声が聴こえてきた。
「もしもしマイちゃん?早貴だけどさ……」
『あ、なっきぃ。どしたの?』
「うん。マイちゃんさあ、今って暇?」
『あー、暇だよ暇。ナンもすることないし、ゴロゴロしてるだけだから』
暇なのは知ってる。
家を出る前に、リビングの長いソファーで横になり、
携帯をいじっていたマイの姿を思い出した。
とても忙しそうには見えなかった。
それでも、(いや、相手はあのマイちゃんだから!)と
早貴は気を引き締め、話を続ける。
「今さあ、まだ千聖とスーパーにいるんだけどね」
『うん』
「ねえ、ちょっと窓の外見てみて?」
『窓の外?』
「ほら、すっごい雨降ってきちゃったじゃん」
『うん』
「でね、ウチらは傘を持ってきてない訳よ。で、帰れなくなっちゃって……」
『うん……それで?』
(ここまで聞いたら、そろそろ察してよ!)
……と、言いたくなった言葉を飲み込むと、
マイの機嫌を損ねないように早貴は話を続ける。
「だからね、傘を二本持って、スーパーまで迎えに来てくれると、
すっごく嬉しいなあとか思ったんだけど……」
早貴は、できるだけ下手に出て頼んでみたつもりだったが、帰ってきた返事は、
『あー、ごめんよなっきぃ、マイちょっと忙しいんだ』
だった。
「えええ!?今、暇だって言ったじゃん」
『急に用事を思い出したんだって。ホント、これマジ!』
「……ねえマイちゃん、何でそう見え見えの嘘つくかな!?」
『はぁ!?嘘じゃないし。急に用事ができたんだし』
「だって、急にそんな用事ができるっておかしいじゃん!」
ご機嫌取りの猫なで声から一転して、マイに詰め寄る早貴の態度が可笑しかったのか、
千聖がニヤニヤしながら、二人の携帯でのやり取りを眺めている。
「ねえマイちゃん、怒んないから、素直に言いな。
ホントはただメンドくさいだけなんでしょ?」
『……そうだよ、メンドくさいに決まってんじゃん。だってさあ、
外見てみ?めっちゃ雨降ってんだよ!?』
「雨降ってるから頼んでんじゃん!ねえマイちゃん、お願い!」
通話相手には見えないのに、早貴は携帯を持っていない方の手で拝みながら、再び頼みこむ。
しかし、
『だから、やだって言ってるじゃん!だいたい梅雨だって明けてないのに、
何で傘くらい持っていかないのさ!?』
「じゃあ、もういい!もう頼まないから!」
マイの言葉に瞬間的に反応して、携帯を切った早貴のふくれっ面を指差して、
千聖がいかにも可笑しそうにケラケラと笑った。
「……ね、だから言ったじゃんかあ。
あのメンドくさがりのマイちゃんが、そんなことしてくれる訳ないって」
ひとしきり笑った後で千聖が言った。
笑われても、早貴はその事では怒る気にはならなかった。
それよりも、寂しく思う気持ちの方が強かったから。
「あーあ……」
早貴は大きく溜め息をつき、続けて言った。
「マイちゃん、変わっちゃったなー……」
ずっと一緒に暮らしてきたんだから、マイについてはいろいろと
知っているつもりだったんだけどな……。
すっかり変わってしまったところや、新たに判ったたところなど――。
「なっきぃ……」
落ち込む早貴の様子を察して、今度は少し心配気に話しかける千聖に、
「……ねえ千聖、もう忘れちゃった?」
早貴が訊ねた。
「忘れたって、何を?」
「ウチらが、まだ小学生の時さ……。早貴が二年生で、千聖と愛理が一年生の時だから、
マイちゃんだけまだ幼稚園で……」
雨が落ちてくる空を見上げ、早貴はあの日の事を思い出していた。
早貴と同学年には栞菜がいて、えりかと舞美は四年生。
幼稚園のマイ以外は、みんな同じ小学校に通っていた。
「ある時さ、学校が終わって帰る頃に、すっごい雨が降ってたことがあったじゃん」
それは今日と同じか、それ以上のどしゃ降りで、
朝は晴れていたので、早貴は傘を持たずに登校をしていた。
「それで、帰れなくなっちゃってさ、みんなで下駄箱の前で
ずーっと立ってたことがあったじゃない?」
それは早貴だけではなく、千聖や愛理たち姉妹も、他の児童たちも同じで、
大きな下駄箱が並ぶ玄関の屋根から先へ出られなくなった子供たちが、
横に連なってきゃあきゃあと騒ぎながら、その先にある校門を眺めていた。
「へええ、そんなことあったっけ?覚えてないや」
「えええ、覚えてないの!?」
大切な思い出を『覚えていない』とあっけらかんと言ってのける千聖に、早貴は少し憤る。
「あー!そうだ、あん時千聖いなかったんだ。雨ン中、走って行っちゃって」
忘れていたのは早貴の方だった。
あの時は、『雨なんか関係ないや』とばかりに駆けていくやんちゃな男子が沢山いた。
その中に、やはり雨など気にせず飛び出していった千聖の姿があったのを思い出した。 「もう、千聖は変わらないんだから」
さっきも、雨の中を走っていこうと提案した千聖を思い出して、
早貴は思わず笑ってしまっていた。
「なになに、なに笑ってんのさ!?」
「ううん。……とにかく、学校から出られなくなっちゃって、
今日みたいに玄関先で立ってたんだ」
学年が上のえりかと舞美の授業はまだ終わっていなかったので、
早貴は、栞菜と愛理の三人で身を寄せ合って、雨が止むのを待っていた。
「でも、いくら待っても雨は止まなくてね。で、ずっと待ってたら、
他のお家の子はみんな、お母さんが傘を持って迎えに来てくれるんだ……」
傘を差して、お母さんと一緒に帰っていく友達に、
「バイバイ」と、早貴は明るく手を振り別れた。
本当の気持ちを悟られないように、努めて明るく振る舞ったつもりだけれど、
自分の感情は隠しきれなかったんだと思う。それから黙り込んでしまった早貴に、
愛理と栞菜も口を開かずに沈黙で応える。
口には出さなかったけど、きっと、愛理と栞菜も同じ気持ちでいたと思う。
羨ましくて、
悔しくて、
そして、だんだん悲しくなってきて……。
「友達がみんな先に帰ってくの見てたら、何だかわかんないけど、
すごく悲しくなってきちゃってさ……」
「…………」 話を聴いていた千聖が、沈鬱な表情を見せて黙り込む。
きっと早貴の顔が、その時の気持ちを思い出して沈んでしまっていたのだろう。
しかし、
「でも、その時ね――」
次に早貴から発せられた言葉は、その笑顔と共に弾けたものだった。
「校門の向こうから、何本も傘を抱えた小さい女の子が歩いてきたんだ!」
女の子は、両手で沢山の傘を抱えていたので、自分は傘を差す余裕が無かったのだろう。
ぶかぶかの黄色いレインコートを着ていたが、強い雨に曝されて全身が濡れそぼっていた。
大きなフードが顔の半分を覆い隠していたが、遠くからでも、
それが誰なのか、早貴にはすぐに分かった。
自分の家族を、見間違えるはずがない――。
「マイちゃん!」
自分達の前まで歩いてきたマイに、早貴たちは驚いて声を掛ける。
全身がずぶ濡れになりながらも、その小さな体の前で守るように六本の傘を抱えたマイは、
フードの中から、まっさらで無垢な笑顔を覗かせて、早貴たち三人を見上げていた。
その顔を見たとき、せっかく、みんなの分の傘を持ってきてくれたマイのためにも、
高学年であるえりかと舞美の授業が終わり、一緒に帰れる時間になるまで、
この雨が止まなければいいな、と早貴は思った。
「……マイちゃんが、ずぶ濡れなりながら、みんなの傘を大事そうに抱えて、
迎えに来てくれたんだ」
「へええ、あのマイちゃんが……」
早貴の話に、千聖が心底から驚いた顔をしている。
自分のあの時の気持ちが、少しでも千聖に伝わることを早貴は願って微笑んだ。 残り3レス分くらいなのであと1週間くらいで終わらせますスイマセン
次もやります。一編でも多くを遺したくなって、久々に愛理主役が描きたいなって思ってて 結局、高学年の授業が終了を告げるチャイムが鳴っても、雨が止むことはなかった。
玄関まで降りてきたえりかと舞美の姿を見つけると、驚いている二人に、
マイは嬉しそうに傘を渡した。
マイは、自分の傘を持たずに、姉たちの傘を六本だけ抱えてきていたが、
千聖がどこかへ消えてしまっていたので、その分の傘をマイが差すことにして、
早貴たちはみんなで一緒に、傘を差して家路に就いた。
「――で、家に着いたら、みんなでマイちゃんのレインコートを脱がせてあげて、
体の濡れてるところを拭いてあげてさ……」
「……そうだ、思い出したぞ!あん時は千聖もめっちゃ濡れてたのに、
誰も千聖の心配しないで、みんなでマイちゃんマイちゃんって」
「千聖が、雨の中、勝手に帰るって行っちゃったんだから、自業自得でしょーが!」
千聖も、その時のことを思い出したようだ。
そうだ。千聖は先に家に着き、着替えて体を拭きながら、みんなの帰りを待っていたんだ。
「じゃあ千聖、その後の言葉は覚えてない?舞美ちゃんが、体を拭いてあげながら、
『……迎えにきてくれるのは嬉しいけどさ、こんなに濡れちゃって、
風邪でも引いたらどうするの?』ってマイちゃんに訊いたんだ。そしたら……」
「そしたら?」
千聖が、真顔で訊いた。
「マイちゃんがね、『だって、たくさんおねえちゃんができて、
うれしかったから』って言ったんだ」
「あ……」
「早貴もね、そのとき『ああ、迎えにきてくれる人がいるっていいな
……家族がいるっていいなあ』って、しみじみ思ったんだ」 千聖は、返事をしなかった。
それでも、千聖の表情から、早貴は察する。
気持ちは、早貴と同じだと思う。
脳裏に浮かぶのは、あの日、
児童養護施設で、自分たちが出会ったばかりの頃のこと。
「じゃあ、私たちで、家族になろうよ」と舞美が言い、みんなで誓った日。
そして、家族を得ることができたからこそ感じられた、あの雨宿りの日の至福。
大切な、思い出――。
「……あの時のマイちゃんは、ものすごく可愛かったのになー」
早貴は、さっき携帯電話で話したマイの“言葉”をあらためて思い出し、
嘆きの混じった言葉を吐いた。
それでも、ずっと一緒に暮らしてきたのだから、マイについては、いろいろ知っているつもりだ。
変わってしまったところもあるけれど、新たに判ったこともあるのだから――。
その時、
「あ、見てなっきぃ。雨が小降りになってきたじゃん!」
千聖が、空を見上げて嬉しそうに言った。
たしかに、雨の勢いが弱くなっている。このまま、雨は止むかもしれない。
「神様!」
早貴は、天に向かって祈った。
雨足はさらに弱まり、
「ほら、これ止みそうだって」
千聖が、軒先の庇から手を出し、雨の勢いを掌に確かめて言った。 「……仏様!」
早貴が手を合わせてさらに強く願うと、雨は、ほとんど止みそうになった。
「おー、なっきぃスゴいじゃん!これで濡れずに帰れそうだし」
しかし、喜ぶ千聖とは正反対に、早貴の表情は曇った。
……ダメだ!
早貴は、思い立って、ポケットに入れていた携帯電話を慌てて取り出す。
指先をせわしなく動かすと、液晶画面の中に一つのフォルダを呼び出す。
その中から、目当てのものを探し出して画面いっぱいに開く。
それは、携帯カメラで撮り、保存していた舞美の写真だ。
「舞美ちゃん、お願い!!」
早貴は、携帯画面の舞美に向かうと、そこに最大限の祈りを込めて願った。
その瞬間、激しい音を立て、勢いを取り戻した雨が再び強く降り始めた。
「あー、何やってんのさ、なっきぃ!」
千聖が怒って言った。
が、早貴は意に介することなく、(さすが雨女の舞美ちゃん、ありがとー!)と、
携帯を力強く胸に抱きしめると、(そろそろかな?)と通りの向こうに視線を移す。
そして、“目当ての人”の姿を無事に見つけて、にっこりと笑った。
「え?」
その笑みを不思議に思った千聖が、早貴の視線の先を向いて、
「マイちゃん!」 さらに驚きの声を上げた。
あの頃と比べると、すっかりと大人になったマイは、右手にお気に入りの色の傘を差し、
左手には他に二本の傘を抱えて、二人の前まで歩いてきた。
「……マイちゃん、どーしたのさ?」
「どーしたじゃないし。電話で呼んだのはそっちじゃんか!」
千聖の問いに、マイがむくれて答える。
「ありがとー、マイ。来てくれると思ってたよ!」
早貴が、嬉しそうに声を掛けると、
「来てくれると思ったじゃないし!……たく、何で傘くらい持ってかないのさ!」
ふくれっ面のマイが、左手に持った傘を、ぶっきらぼうに早貴と千聖に差し出す。
「ありがとー!」と、早貴は満面の笑顔で傘を受け取る。
早貴と千聖、それぞれがお気に入りの色の傘だ。
「だいたいさあ、もしマイにガチで用事があったらどーする訳よ?え?」
怒り口調で捲し立てるマイに、それでも早貴は微笑んでしまう。
ずっと一緒に暮らしきたのだから、マイについては、いろいろ知っているつもりだ。
マイが変わってしまったのは、いつの間にか、すっかり“口”が悪くなってしまったところ。
それから……、
「まあまあ、そう言わないで。マイちゃんがホントは優しいの知ってるんだしさ」
早貴が、なだめるように言うと、 「……別に、なっきぃがどれだけ濡れて帰ろうが、どうでもいいし。
あんまり遅くなって、マイのアイスが溶けちゃうと困るから、迎えに来ただけだし」
冷たい言葉の裏に隠れるもの――、
早貴には、マイの瞳の奥にる感情が読み取れている。
早貴が知る、マイの性格、あらたに判ったところ。
その性格が、意外と“ツンデレ”だったということだ――。
「はいはい、わかったわかった。じゃあ、早く帰ろ」
早貴が、マイの肩をポンポンと叩くと、
「わかったじゃないよ。今度から傘くらいちゃんと持ってけ?マジで」
「うんうん、感謝してる」「マイちゃんのおかげです」
今度は、千聖と二人でなだめると、マイの口の端に、かすかな笑みが浮かんだ。
マイが来てくれるのはわかっていたので、この雨は止まないで欲しかった。
早貴は、再び舞美に感謝をすると、大切な家族から受け取った、お気に入りの色の傘を差し、
雨の中に一歩を踏み出す。
並んだ三色の傘は、くっついたり離れたりを繰り返しながら、仲良く家路に就いた。
(……この話は、いい話のままで終わらせましょう。
家に着き、『ねえ、マイのガリガリ君が無いじゃんかあ!』と
ひと悶着があったことは、みなさんには内緒で。 早貴)
「ちょっと、なっきぃぃ!!」
「……ハイっ!ゴメンなさいっ!!」 そろそろ書きたくなってきたので何か書く
誰も読んでなくても、まずは宣言することで退路を断たないと
サボっちゃってなかなか進まないので、いつものように宣言から ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています