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想像力を刺激されて、人によって違う見え方になる作品

──吹き替え版を引き受けようと思えた、決め手は何だったんでしょうか。

のん:映像が面白かったのが決め手でした。
こういう、挑戦している作品に参加できるのは、すごくうれしいなと思ってました。
抽象的な風景や人間が出てくるので、想像力を刺激されて。
見る人によって違う見え方になる映像というのは、すごいと思いました。


──ところで、先ほどマロナのようにシンプルな幸せを感じ取っていきたい」と仰いましたが、
のんさんが考える「幸せ」とは何でしょうか?

のん:私の幸せは、一生こういうお仕事、表現することを続けていくということだな、と思います。
なので、マロナとちょっと違うかもしれないです。
でも最近は、それこそ『この世界の片隅に』ですずさんを演じてからは、
日々、ご飯を作って食べる幸せを実感するようになりました。

それまでは「一番好きな食べ物がポテチ」と言ってて(笑)。
普段自分の作った食べ物をおいしいと思ってなかったんですけど。
おうちで頑張ってご飯作ってみて、「え、めちゃくちゃおいしいじゃん!」と感動するのが
、「あ、これって幸せだなあ」と感じるようになってきて。
その下積みがあったから、マロナのミルクの気持ちも共感できるようになってたかなとは思います。

──そういえば、お話を聞いていて急に思いましたが、
すずさんとマロナは、そういう意味では、ちょっと共通する部分もあるのかもですね。

のん:そうなのかもしれないですよね。もしかしたら、ほんとは人も犬も一緒なんだけど、
人間の世界のほうが複雑に生きてるから、普通の暮らしの中に見つける幸せっていうのが埋もれてっちゃうっていうか、
それはすごく感じました。
私は、たまたま、すずさんのおかげで、「ご飯おいしい」という気持ちが膨れ上がってたんですけど。
きっとマノーレもイシュトヴァンも、みんな、本当は日々の暮らしの中で、あるのかなと思いました。
それが、いろんな要素の中で一番じゃなくなってるっていうか。
だからマロナを見てると、「そうかも」って思えてくるような気持ちもありました。