新田は退職時、自分で会社を立ち上げ、登記している。
だが、このときは投資関連の仕事ではなく、犬のブリーダーみたいなことをやるつもりだったらしく、
それしか書いていない。
登記後1ヶ月くらいでやりたことがすっかり変わってしまったのである。

あるいは、よく考えたうえでブリーダーをしようとしていたのではないのだろう。
新田はよくその場の思い付きで嘘を作っていたが、
自分の将来もその場の思いつきで決めていたに違いない。
べつに思いつきで人生を決めてもいいとは思うが、
その思いつき方があまりにデタラメなのだ。

人が幸せになるには、
例えばその人に10の力があるとすると11くらいを目指すのが良いとされる。
このことは幸福心理学などでも説かれている。
だが新田は1の力しかないのに100を目指そうとして惨めな挫折を繰り返す。
あげくに嘘をついて、自己暗示をし、100を成し遂げたことにしてしまう(精神勝利法)。
これでは不幸になるばかりである。
しかも新田は過去を反省しない(「私は学ばないことを学んだ」)ことが信条であるから、
何度も同じ不幸を味わう。

身の程を知れというのは、単に「あきらめろ」という意味ではなく、
その人が幸福になるための智慧でもあるのだ。