■世界謀略白書■ <著者>丸谷元人 

第1章 世界の現実を忘れてしまった日本人

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★謀略アレルギーに陥っている日本人
理由はあとでお話しますが、北方領土にしろ、竹島や尖閣諸島にしろ、これらの問題の背後にアメリカがいたというのは、間違いのない歴史的事実です。
私がそのことを説明すると、たとえ高名な方であっても、「じゃあ、アメリカというのは悪い国じゃないか!」と反応する日本人は多いものです。

しかし、これは「良い悪い」という観点で括れる話ではないのです。
戦後のアメリカの帝国主義的な世界支配というのは、まさにこういうものだからです。

仮に、日本が第二次大戦で負けず、アジアを中心に巨大な帝国を築いていたとしたら、そんな帝国の権力と自国の国益を守るために、
今まさにアメリカと同じようなことをやっていたかもしれないのです。
「日本は絶対にそんなことをしない」とは、とても言い切れません。

実際に、戦国時代の武将などは、みな同じようなことをやっていました。
日本でも、かつては謀略やスパイ活動は日常茶飯事だったのです。
問題は、われわれがこうした「謀略」というものの存在を忘れてしまったということ。

あまりに平和ボケしてしまったので、そういう情報を聞いても受け付けられず、感情的に反応し、見ないようにしてしまうのですね。
そんな心優しい日本の人々をなだめるために、メディアはいろんな情報をオブラートに包んで発信してくれます。
われわれはそれを聞いて、「今日も世の中は平和だ」「少なくとも日本は平和だ」と安心しているのです。
でもそれは、砂漠にいるラクダと同じじゃないかと私は思います。

ラクダは、砂漠を歩いているときに毒を持ったサソリが目の前にあらわれると、砂のなかに頭を突っ込んでしまうそうです。
怖いから見ないようにして、目の前の危機をなかったことにしてしまうのですね。
しかし、危機は引き続きまだそこにあるわけです。
日本人の平和ボケも、ラクダの平和主義と同じです。

現実に、危機は「そこ」にありますが、砂漠に頭を突っ込んでいる以上、何も見えませんから、「危機はない」と思い込んでしまうわけです。
それが戦後七〇年以上も続いてきた、今の日本の平和ボケの本質ではないかと思います。
力のある国々は、地下資源など、世界中でさまざまな権益を獲得するために、謀略を使って外国政府を転覆させたりしています。

最近、そういう行為を正当化するための“口実”として使われるのが「市場原理主義」
(市場原理主義とは新自由主義グローバリズムの中核を担う理論)という言葉です。
「市場原理主義」とは、ミルトン・フリードマンというシカゴ学派の有名な経済学者が提唱したもので、
「企業がどんどん利益を追求していけば、必ず、“神の見えざる手”が市場を差配するから、うまくいく」という、少し乱暴な理論です。

二〇〇〇年代、日本国内でもかなり喧伝されました。
しかし実態は、それを実行した中南米では見事に一パーセントの超大富豪と九九パーセントの貧困層に分かれてしまうなど、非常に大きな問題が生じているのです。
80年代の中南米では、市場原理主義の経済理論に忠実な政策・改革がおこなわれてきました。

そして、この現状に腹を立てた人々が、あらゆるところで反政府ゲリラとなって立ち上がり、治安まで悪化しています。
今日の中南米に「反米的」と言われる政治家が多いのは、彼らが若いときにそれだけ苦労したということです。
「市場原理主義」という口実を使った資源目当ての謀略に、ものすごく苦しめられたというのが実態なのです。