◇すべてのインテグリティを失っている日本の政権中枢
藤井:つまり、ミサイル防衛システムをちゃらにする方法は、いくらでもあるし、そういうものの一部をすでに北朝鮮ですら持っているわけですね。
で、それにもかかわらずアメリカは日本に対して、そんな、イザとなれば役に立たない高いミサイル防衛システムを売り続けているわけですね。

伊藤:「我々からミサイル防衛システムを買えば、お前たちは大丈夫だ」と、誠実な同士愛と正義感に溢れたアメリカ様は言ってくださる(笑)。

藤井:とんでもない欺瞞、詐欺そのものですよね。

伊藤:その通り!しかも日本人には、全く危機感がないんですね。
「核の傘」はフェイクだし、何兆円もするミサイル防衛システムは役に立たないし、それにもかかわらず、日本人は一番重要な議論から逃げまくっているわけです。
僕が外務省や防衛省や自衛隊のトップレベルの人たちとプライベートな場で議論すると、彼らは「伊藤さん、それ、分かってます」と言う。
外務省の局長審議官レベルの人とか、自衛隊の司令官レベルの連中ね。

「じゃ、何で文句言わないの?」と聞くと、彼らは「上から言われたことですから」と。
「上から言われたことって何?」と聞くと、「総理官邸がそう決めたんですから、しょうがないです」と。
「じゃ何で総理官邸、そういうふうに決めたの?」って聞くと、「アメリカが言ってきたから、従っているだけです」と。

いや、これ、本当ですよ。
藤井さんもご自身で体験されたと思いますけども、日本政府の中枢部には、本当の議論ってないんですよね。

藤井:ほんっとにそうです(苦笑)。
ホントの議論なんて、政府中枢では全くやってない。特に対米関係については、皆、判で押したように押し黙る。

伊藤:そうそう。
外務省とか防衛省とか自衛隊の一番上の連中が、「上から言われたことですから」と。
「じゃああなたは、どう思ってるの?役に立つと思ってるの?核攻撃や核恫喝を防げると思っているの?」
「いや、それは分かりません。我々は上からの命令に従うだけですから」と。

藤井:要するに我々日本には、主権がないんですね。防衛主権が全くない、ということですね。

伊藤:しかも、国防や外交の主権がないだけじゃなくて、日本の政府中枢には(西部さんが好きだった言葉を使うと)
intellectual integrity(知的廉潔) moral integrityがないんです。
彼らは全員、「上から言われたことですから」と誤魔化してしまう。
それ以上は、何も考えない。

自分自身で核戦略理論や過去5世紀間の国際政治史や軍事史をきちんと勉強して、自分で考えてみようとしない。
米政府の役人が一方的にイカサマな理屈を押し付けてくると、彼らはフニャフニャした態度で自分の意見を言おうともせず――。

藤井:そんなの、自分で考えた事を口に出せばいいだけですよね。
伊藤:そう!間違った理屈を押し付けられたら、きちんと反論するのがintegrityでしょ。

藤井:全くおっしゃる通りです。
上が言っているからってだけで押し黙るなんて、あらゆる意味で堕落していますよね。
どんな状況でも、反論は当然できるはずです。

伊藤:ところがゼロ、ゼロなんですよ。

藤井:ホント許しがたい状況ですね。
言い方に工夫は必要だとは思いますが、正々堂々と本当のことを言うことはできるはずです。
にもかかわらず言わなければ、ただ単にアメリカに侮られるだけですよ。

伊藤:だけど藤井さんみたいな人、いないんだって、日本の官庁の上にいくと。
課長レベルで黙っちゃうね。首席左官レベルでは数人、ぶつぶつ言うやつがいるけど、課長レベルまでいくとほとんど全員、黙るね。
そのポジションで「アメリカの言っていることはおかしい」なんて言うと、村八分にされるから。

外務省・防衛省・自衛隊の課長レベルで、「米政府の理屈はおかしい。いざとなったら核の傘は機能しないだろう。
ミサイル防衛システムは約に立たないだろう」と言ったら、即座に「お前、変なこと言うから、出世させない」となる。それでアウト。

藤井:それはとんでもない話ですね。
伊藤:日本の組織って、臆病者の集団だから。