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◇アメリカが作ったウソ話に嬉々として乗っかった日本
伊藤:何百発も何千発も核弾頭の撃ち合いをやればいいんだっていう話。明らかに非現実的で血迷った議論です。
しかしアメリカ政府はCounterforce理論を採用したんです。

何故かっていうと、アメリカは同盟諸国(特に日独仏)の核保有と自主防衛を阻止したかったからです。
Minimum Deterrence理論からすると、核弾頭というのはお互いに二百発か三百発くらい持てば、それで十分なのです。
米中露がそれ以上持っても無駄なのです。

核兵器は「敵からの核攻撃に対する抑止力」としてしか機能しないからです。
しかしこのMinimum Deterrence理論を米政府が公式の軍事パラダイムとして採用すると、
アメリカは「我々は、日本やドイツのような同盟国に対する『核の傘の保障』を実行するためにソ連と核戦争する覚悟がある」とは言えなくなる。

Minimum Deterrence理論によれば、核兵器とは自国に対する核攻撃を抑止するためのものであり、
実際に敵国とホイホイ核弾頭の撃ち合いをやってみせるための兵器ではないからです。

当たり前の話ですね。
自国ではなく同盟国を守るために、米政府が中露との核戦争を実際に実行するかっていうと、絶対にやらないわけですよ。

藤井:そりゃそうですよね。
日本がソ連から核攻撃された時に、その報復だってことでアメリカがソ連に核攻撃をしたら、今度はアメリカがはソ連に確実に攻撃されてしまいますよね。
だから、アメリカは、日本が核攻撃されても、自分がソ連から核攻撃されるのが怖いから、ソ連に報復の核攻撃をすることはできない。
だから、アメリカは、日本のために核戦争を始めるなんてことは絶対にありませんよね。

しかもソ連は、以上のようにアメリカは考えるだろう、と考える。
だから結局、ソ連は日本に核攻撃をしても、アメリカから報復されることはないという確信の下、日本に対して核攻撃を仕掛けることができる、というわけですね。

そして、日本が十分に理性的であれば、日本には核の傘なんてない、ということを認識することになる。
だから、日本がソ連から核攻撃をされないようにするには、日本もまた、核武装する他に道がない、ということになる。
以上が、Minimum Deterrence/最小抑止の理論から演繹される、当然の帰結ですよね。
つまり、Minimum Deterrence/最小抑止理論が正しければ、そして、日本が十分に理性的であるなら、日本は必然的に核武装せざるを得なくなるわけですよね。

伊藤:まさにその通り。
ところがアメリカは同盟国に核を持たせたくないわけです。
イギリスとイスラエルだけは例外扱いしたけど、ドゴール大統領が核を持とうとしたら、徹底的に意地悪して邪魔した
(怒ったドゴールは、米軍を仏国内からすべて追放して核保有を実現した)。

その後、1964年に中国が核弾頭を爆発させたら、佐藤栄作が「日本も核を持つべきだ」って言いだした。
そこで日本とドイツの核保有を阻止したい米政府はMinimum Deterrence理論とは違う核戦略パラダイムを提唱し始めたのです。

藤井:なるほど、そこで、アメリカが無理やり考え出したウソ話が、Counterforce理論だった、ってわけですね。

伊藤:Counterforceのパラダイムによれば、米政府には敵国と数百基、数千基の多弾頭核ミサイルの撃ち合いをする覚悟がある。
その結果として例えば、ロシア軍は米国民を「たった6千万人」しか殺せないけど、米軍はロシア人を二億人も殺せる。
だから「アメリカはロシアとの核戦争に勝利する!」という。

したがって「米政府が同盟国に提供している核の傘の保障は有効なのだ」という理屈になる。
そういうむちゃくちゃな核戦略理論を主張し始めたわけです。
でも米国民が6千万人死んだら、敵国の国民を何億人殺そうとも、両方とも負けですよ。「核戦争に勝者なし」です。

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藤井:ホントにそれしか考えられないですね。
日本は、「アメリカの核の傘に守られている」っていうのは、論理的に考えれば、100%純粋な「ウソだ」ってことですね。

伊藤:そう。
それにもかかわらず、日本人はその議論から徹底的に逃げまくっている。
さすが「サムライの国」だね、頼もしい人たちばかりです(笑)

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