抜けたところのない人間は、男でも女でも、人気を博することはむづかしい。


秘密は人を多忙にする。
怠け者は秘密を持つこともできず、秘密と付合うこともできない。


人間の弱さは強さと同一のものであり、
美点は欠点の別な側面だという考えに達するためには、年をとらなければならない。


偶然とは、人間どもの理解をこえた高い必然が、
ふだんは厚いマントに身を隠しているのに、
ちらとその素肌の一部をのぞかせてしまった現象なのだ。


愛から嫉妬が生まれるように、嫉妬から愛が生まれることもある。


忠告が社会生活の潤滑油となることは滅多に無く、
人の面目を潰し、人の気力を阻喪させ、
恨みをかうことに終わるのが十中八、九である。


悲しみとは精神的なものであり、笑いとは知的なものである。


退廃した純潔は、世の凡ゆる退廃のうちでも、いちばん悪質の退廃だ。


好奇心には道徳がないのである。
もしかするとそれは人間のもちうるもっとも不徳な欲望かもしれない。


人生は、成熟ないし発展ということが
何ら約束されていないところに怖ろしさがある。

三島由紀夫