最近の映画には成長神話みたいなものがあって、
そのほとんどは成長すればなんでもいいと思ってますね。
だけど現実の自分を見て、お前は成長したかと言われると、
僕なんか何かこの60年、ただグルグル回っていただけのような気がするんです。


本を読むから考えが深くなる、なんていうことは
あまり考えなくてもいいんじゃないでしょうか。
本を読むと立派になるかというとそんなことはないですからね。


一人ひとりが自分は何をするかを考える時です。
それぞれができる範囲のことをやればいい。
木を残すことと近所を掃くことは、価値としては同じではないかと思うのです。


もう、とことん考える。ありとあらゆる方向を探るんです。
とことん困ると、奥のほうでふたが開くんです。
そのふたが開くと、最初に考えもしなかった方向が見えたりする。
それでも、一歩進めるんです。


ぼくはいつも目からうろこが落ちたいと思ってるんです。
全然落ちないですけど……。「こんなものみたいんじゃない」って思ってしまう。
だから意地張って頑張ってるんです。
でも、作るたびに「もう引退だ!」とわめいているんですけどね。


ジブリでいつも作業が始まる前に、
掃除をしてくれるおじいさんとおばあちゃんがいるんですけど、
たぶん一番丁寧なあいさつをするのは鈴木さんと僕です。
本当によくやってくれるもんねえ。
「どうもありがとうございます。おはようございます」って言うと、
向こうも「おはようございます」って。ほんとそうなんですよ。
だから、その前を、ボソーッとした顔して耳栓なんかして
音楽なんか聴いてるやつが通るとね、蹴飛ばしたくなるんですよ。
お前たちの国は滅びるぞってね。


部屋で最新式のコンピューターに向かってポコポコやってるところから
クリエイターは出てくるんじゃなくて、
もっと古いものの集積の中から出てくるんだと思うんです。

宮崎駿