ロックの核心は反体制、反権力だ。
成功した俺にもうロックは歌えない。聴衆を誰一人ごまかしたくない。


気がついたら俺も、他のロックスターがやっているのと、
あるいはやらされているのと同じことをしていた。
つまり、手紙にも返事が書けないし、最近の音楽を把握しておけないし。ほとんど監禁状態だ。
外の世界が、俺にはおよそ異質に感じられるんだ。


自分だってみんなに嘘をつくの嫌だ。ただの一人も騙したくない。
自分が考える最も重い罪とは、100%楽しいのだと嘘をつき、ふりをして、人を騙すこと。
時々ステージに出て行く前にタイムカードでも押しているかのような気分にかられていたんだ。


自分は惨めで、ちっぽけな、何の価値もない、魚座の、救いようもない男。
どうして楽しむことができないんだ。分からない。


人間みんなどこか必ず良いところがある。
だから本当に人が好きだ。あまりにも愛しているので悲しくなってしまうんだ。


感謝しなくちゃいけないだ。だから出来る限りの力を尽くしてがんばってみた。
(本当なんだ、信じて欲しい、それでも足りないんだ)。
自分や自分達が沢山の人達に影響を与え、そして楽しんで貰えた事は重要だと思っている。
きっと全てを失ったときに初めてそのありがたみが分る世界一のナルシストなんだ。
自分はあまりにも繊細すぎるんだ。
子供のころに持っていた熱狂を取り戻すには、
少し鈍感でなければならないのに、あまりにも神経質で感じやすい。
この最後の三つのツアーでは、みんなやファンにはすごく感謝している。
それでもこの不満、罪悪感、感情は解消できなかったんだ。


本当は知性があるのに、最低な人間のように振舞っている奴らのことは
それなりにリスペクトするよ。


俺には女神がいる。夢と共感を勝ち取った妻、
そして俺に、昔の俺ってもんを気づかせてくれる、愛情と喜びに満ち溢れた娘が。
そしてそれが、どうにもならないくらい俺をおびえさせるんだ。


つまらない人間になるほど幸福にはならないようにと願っている。

カート・コバーン