連載「金閣寺を60回訪れたイスラエル人教授の“ニッポン学”」

ニシム・オトマズキン2021.7.4 09:00dot.#イスラエル




 先月、イスラエルで新内閣と第18代首相が誕生しました。新首相はナフタリ・ベネット氏(49)。全国会議員120人のうち、7議席を持っている政党の党首です。新政権は、政治的には左右8つの政党の連立によって、ベンヤミン・ネタニヤフ氏の12年間にわたる長期政権を終わらせました。それだけでなく、連立政党の一つとして内閣に初めてアラブ系政党が含まれていることが、イスラエルの政治史における大きな出来事です。

 イスラエル史上最長の首相任期を務めてきたベンヤミン・ネタニヤフ氏は、辞任を拒否し党首として再選挙に出ましたが、支持勢力の議席数は過半数を確保できませんでした。71歳のネタニヤフ氏は、政治的には一匹オオカミであり、有能な選挙運動家ですが、政界での公約を果たしていない人物としての評判はすでに大きく、イスラエル議会内で彼を信頼する人は少数となり、多くの政党が彼と連立を組むことを拒否しました。

 この新政権の興味深い点は、それがイスラエル社会の多様性を表しているということです。 ネタニヤフ前政権は国内の右と左の政治的分裂をそのままにしましたが、新政権はイスラエル社会のユダヤ人とアラブ人、右派と左派、宗教と世俗、など異なるセクターの広範囲のグループを団結させることを選びました。

 8つの政党は、それぞれが異なる社会セクターを代表しています。ベネット新首相は、主にイデオロギー的には右派でマイルドな宗教派の有権者を代表する「ヤミナ」党の党首です。連立内閣内で最大の議席を持つ「イエシュ・アティド」の党首ヤイル・ラピッド外相を支持する有権者は主に左派と世俗派です。財務大臣のリーベルマン氏を支持する有権者はロシアから移民してきた右派イスラエル人たちです(イスラエルのユダヤ人社会の約20%はロシア移民)。
そのほか国防大臣ガンツ氏を支持する有権者は中道派、熱心なフェミニストのメラブ・ミハエリ氏の労働党は中道左派、そして自らもゲイを公言しているニツァン・ホロウィッツ氏が率いるメレツは自由主義の左派。連立の最後のメンバーは、アラブ・イスラム系政党を代表する、イスラム聖職者として訓練を受けたマンスール・アッバス氏です。
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