・インド「イスラム差別」法案が波紋 他宗教の不法移民には国籍

 【ニューデリー松井聡】ヒンズー教徒が約8割を占めるインドで、イスラム教徒以外の不法移民にのみ国籍を与える法律改正案が下院で可決された。ヒンズー至上主義を掲げるモディ首相の与党・インド人民党(BJP)の母体組織はイスラム教徒と対立してきた歴史があり、春に予定される総選挙に向け、保守層の支持固めを狙ったとみられる。イスラム教徒や専門家らは「憲法の規定にある法の下の平等に反し、宗教間の対立をあおる」と批判している。

 8日に下院で可決された改正案は、2014年末までにインドに不法入国したパキスタン、バングラデシュ、アフガニスタン出身者のうち、ヒンズー教▽シーク教▽仏教▽キリスト教――などイスラム教を除く6宗教の信者に国籍を付与するもの。バングラからの不法移民だけで2000万人に上るとの見方もあるが、宗教別の人数を含め詳細は不明だ。

 この3カ国はいずれもイスラム教国で、それぞれ宗教的少数派への差別や迫害が度々問題になってきた。このことを踏まえ、BJP前総裁のシン内相は「(イスラム教徒でない)彼らはインド以外に行く場所がない」と改正の意義を強調する。

 イスラム教徒からは反発の声が上がる。ニューデリーで38年間暮らすバングラ出身のイスラム教徒の男性(55)は20年以上前にインド国籍を取得。「私は運が良かったが、取得できていない多くの人々もここに生活基盤がある。イスラム教徒というだけで出て行けと言われるのはおかしい」と憤る。

 ジャダプール大のオンプラカシュ・ミシュラ教授は「宗教で人々の権利を選別するのは明らかな憲法違反」と指摘。さらに「BJPは上院で過半数の議席を持っておらず、実際に改正案を施行できるとは考えていない。ヒンズー教徒のために取り組んでいるという姿勢を見せたいだけだ」と批判する。

 インドでは、14年のモディ政権誕生以降、勢いを増したヒンズー過激主義者によるイスラム教徒への襲撃や嫌がらせが相次ぐ。BJPに詳しい地元紙の記者は「改正案の下院可決はBJPの反イスラム姿勢の最たる例だ。過激主義者の行動がさらにエスカレートしかねない」と懸念を示す。

 一方、BJPの思惑とは裏腹に、不法移民が多い北東部では改正案に反発する動きがヒンズー教徒にも広がる。特にアッサム州では改正案への抗議デモが連日続き、BJPの連立政権のメンバーだった地域政党が連立からの離脱を決めた。

 アッサムの人々はもともと言葉や生活習慣が異なるバングラからの移民流入に反対してきた。改正案が成立すればイスラム教徒以外のバングラ人の更なる流入を招くとの不満がある。

 匿名を条件に取材に応じた政府系シンクタンクの専門家は「アッサム州では反移民を主張する武装組織が活動してきた。近年は弱体化していたが、改正案を機に息を吹き返すだろう。『パンドラの箱』を開けてしまった恐れもある」と指摘する。

・ヒンズー至上主義とイスラム教徒
 インドのイスラム教徒は全人口約13億人のうち約14%で、宗教別ではヒンズー教徒に次ぐ。19世紀後半以降、インドを植民地としていた英国が、独立運動を妨害する目的でヒンズー教徒とイスラム教徒の対立をあおる政策を取った。インド独立の父、マハトマ・ガンジーは宗教間融和を訴えたが、インド人民党(BJP)の母体のヒンズー至上主義団体「民族奉仕団」(RSS)はこれに反発し、1992年の北部のモスク(イスラム教礼拝所)破壊を主導した。2002年には西部でRSSのメンバーらとイスラム教徒が衝突し、イスラム教徒を中心に1000人以上が死亡した。

・Rahul Gandhi did not credit only Islam for inspiring Mahatma Gandhi’s idea of non-violence
https://theprint.in/hoaxposed/rahul-gandhi-did-not-credit-only-islam-for-inspiring-mahatma-gandhis-idea-of-non-violence/177682/

(インドの選挙管理委員会発行の有権者証などを見せるバングラ出身のイスラム教徒の男性。イスラム教徒にだけこれらを取得できなくする改正案は「宗教差別だ」と非難した)
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2019年 1月14日 07時30分 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20190114/k00/00m/030/007000c