中ロの協力が進まない背景には、人口わずか600万人のロシア極東地域に中国人移民が大量に押し寄せかねないとの恐怖が常に存在してきたこともある。1990年代にはロシアの国家主義的な政治家たちが中国人がビザ(査証)なしで入国できるのを廃止すべきだと活動し、中国人男性がどんどんロシア人女性と結婚していると激しい批判を展開した。

だが、ロシア政府が4年ほど前に実施した調査で、それまでロシアには数百万人に上る中国人が在住するとされていたが、実際には約60万人しかおらず、その多くは欧州に近いロシア西部に居住していることが判明した。これで中国移民への恐怖は和らいだが、それでも世論は反中国となると、あおられやすい。最近もロシアの新聞各社は、シベリアで中国企業が木材を伐採していると痛烈に非難した。

米カーネギー国際平和基金傘下のシンクタンク、カーネギー・モスクワ・センターのアレクサンドル・ガブエフ氏によると、ロシアのエリート層は以前から中国を見下してきた。あるロシア政府関係者は金融危機の直前、中国は近代国家のイメージを打ち出そうとしているが、「たった一杯の飯のために働く大勢の貧しい人々ばかり」というのが実態で、中国の国内総生産(GDP)は張りぼてにすぎないと嘲笑したという。

こうしたロシアの態度をみると中ロ関係が親密になれるのか疑わしく思える。マティス米国防長官は9月に「ロシアと中国の利害関係が長期的に一致する要素はほとんど見当たらない」と述べた。だが中ロは冷徹に計算した利害に基づくため、強力だと主張するロシア人と中国人の専門家もいる。シン氏は、旧ソ連時代は中国が格下だったが、今では両国の関係は正常化したため、中ロ間のプロジェクトは合理的に判断されるようになったと言う。「人口の少ないシベリアに高速鉄道を建設しても誰が利用するのか(とロシア人は判断したのだ)」
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だが何か契機があれば国と国の関係は一気に深まる。ガブエフ氏はその一例にロシアが2014年にクリミアを併合し、欧米諸国から制裁を受けた際、中国の資本や技術、市場に頼ったことを挙げた。今年9月には中国軍兵士3200人が、ロシア軍兵士30万人と東シベリアで合同演習をした。1969年に国境で戦闘を交えた両国が、驚くような相互信頼を内外に示した格好だ。ロシアの中国への武器輸出は2005年に中国がロシア製戦闘機の設計を盗んだ件を含むスパイ事件で一時後退したが、最近拡大している。技術進歩が著しい中国は早晩、武器輸入の必要がなくなりそうなため、ロシアは今のうちに売り込もうと必死だ。

中国はすぐ武力行使するロシアを危険視し、軍事同盟は望んでいない。だが両国は共に国連において、人権より各国の主権と、強権を使っても国内の安定が優先されるべきだとの見方を世界に広めている。中国はロシアに倣い、外国の非政府組織(NGO)を厳しく管理する法律を制定した。ロシア情報機関は、中国の社会監視システムの技術に熱い視線を注いでいる。

中国人とロシア人は今も互いに強い不信感を持つ。これは琿春の住民に高速鉄道のことを聞いてみれば一目瞭然だ。だが両国政府が共通して抱く国際社会への不信感が絆を深めるのに貢献している。さらに中ロの首脳それぞれに好意をみせるトランプ氏という米大統領が中ロの間に存在しても、中ロの結束は揺らいではいない。友好的かどうかではなく、戦略的利害関係で決まる隣国関係もあるということだ。

(c) 2018 The Economist Newspaper Limited. Dec. 8, 2018. All rights reserved.