・分裂する米国、広がる「部族」主義: 長野宏美

 分断の広がるトランプ大統領の米国で、頻繁に耳にするようになった言葉がある。一つはpolarize(分裂する、二極化する)で、もう一つはtribal(部族の)だ。後者に関連し、tribe(部族)やtribalism(部族主義)という単語もよく聞く。まるで部族対立のように異なる考えを持つグループを許容できない米国社会の分裂ぶりを表す時に使う。「反トランプ」か「親トランプ」か。異なる「部族」に属することで、家族や友人を失ったという話も珍しくない。そんな部族化する分裂社会に嘆き、動揺している人も多いと感じる。中間選挙を11月に控えて党派対立がさらに深まる中、米国人はどう感じているのか。彼らの声を紹介する。

 時事ニュースを討論するカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のシニア向け公開講座。正反対の意見が出るとため息が漏れ、互いが歩み寄ることはない。白人男性が思わず嘆いた。「長年、討論の講座に参加していますが、かつてはこれほど分断されていませんでした」。講師の女性、ミルナ・ハントさんが諭す。「皆さん、同意しなくてもいいけれど、少なくとも話を聞きましょう」

 10月10日の授業は、トランプ支持集会の特徴を解説したロサンゼルス・タイムズ紙や反セクハラ運動「MeToo(私も)」から1年を分析した英誌エコノミストの記事などを素材に討論が進められた。この日の受講生は50歳以上の約120人で、黒人2人以外は白人だ。意見や反応から推測すると、圧倒的多数が「反トランプ」の民主党支持者とみられる。映画を見ている時にも感じるが、米国人は素直に反応を表に出す。授業でも話が長すぎる人には軽いブーイングが飛び、「私は共和党員だ」という自己紹介や共和党寄りの意見には「オー」や「ノー」と嘆き声が漏れた。

 この日の最初のテーマはトランプ氏の集会。講師がロサンゼルス・タイムズの記事の概要を次のように紹介した。

 <トランプ氏の集会では、英雄と悪役がいて、英雄はもちろんトランプ氏。悪役は、外の敵が中国、移民、中米のギャング組織「MS13」、イスラム教徒のテロリストで、内なる脅威は民主党とメディアです。トランプ氏は自分の支持者受けすることしか考えていませんね>

 白人女性が言った。「トランプ大統領になってストレスを感じるのは部族主義が強まっていることです。米国は悪い方向に向かっていると感じます。民主党支持者は怒っていますが、それではトランプの思うつぼではないでしょうか。双方が怒りをぶつけ、部族主義のように分断しています。非難し合うのではなく、人間としてもっと穏やかで思いやりのあるアプローチを探るべきだと思います」

 講師が女性に「あなたには共和党の友人が何人いますか?」と聞くと、「一人もいません」と答えた。

 白人男性が続ける。「一人の男(トランプ氏)がカオスを引き起こしています。私は共和党の穏健派です。女性の権利など、民主党の信条も理解しています」

 講師「あなたはトランプがこの怒りをすべて引き起こしているとでも思っているのですか?」

 白人男性「はい。彼が(民主党と共和党の)二つの党をますます引き離していると思います。共和党はより右に行き、民主党はかなり左に寄り過ぎています。私のような穏健派は右と左の真ん中で固まっているのです」

 討論が進み、「部族対立」があらわになる場面があった。民主党員の白人男性が「民主党が支持するのは女性の権利……」と話している途中で、後方から白人男性が叫んだ。「国境の開放だ!」

 これはトランプ氏が日ごろから繰り返す主張でもある。彼は移民の受け入れに寛容な民主党を「国境開放主義者だ」と批判し、メキシコ国境に「壁を造る」と言って支持を集めてきた。民主党は貧困や暴力から逃れてきた不法移民にも、条件付きで滞在資格を与える制度改革の必要性などを訴えているが、無条件に「国境を開放」するのとは異なる。

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2018年10月13日 毎日新聞
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