中国はなぜいま少数民族の弾圧を加速させるか──ウイグル強制収容所を法的に認めた意味

<同じ信仰を持つウイグル人への人類史上例を見ない弾圧に、イスラム教国が抗議しない理由は? 本誌10月23日号「日本人がまだ知らない ウイグル弾圧」特集より>

トルコ語と同じテュルク語系の言語を話し、イスラム教を信仰するウイグル人。その最大100万人が中国政府の「再教育施設」に入れられ、多くの市民が無数の監視カメラで一挙手一投足を見張られているという。ところが、そんな国を挙げてのウイグル人弾圧に対して、世界のイスラム教徒はおおむね沈黙を守っている。

パレスチナ人が受ける不当な扱いや、ミャンマーのロヒンギャが受ける迫害には、世界中のイスラム教徒が激怒して非難の声を上げるが、ウイグル人のためには小さな声さえ上がらない。この10年間、イスラム教徒が多数派を占める国(ここでは便宜的に「ムスリム国家」と呼ぶことにする)のリーダーで、ウイグル人支持を明確に表明した人物は1人もいない。

それどころか中国との関係を強化したり、ひどい場合は、中国政府によるウイグル迫害を事実上容認するムスリム国家も少なくない。エジプト政府は昨年夏、ウイグル人数百人を中国に強制送還した。そんなことをすれば、彼らは一生獄中生活を送ることになるか、処刑される可能性もあると分かっているのに、だ。マレーシアとパキスタンも11年に同じことをしている。

これが、欧米諸国とりわけイスラエルがイスラム教徒を迫害しているというニュースだったら、反応は全く異なる。パレスチナ自治区ガザで起きた事件は、中東だけでなく遠く離れたバングラデシュやインドネシアなどイスラム世界全体の怒りを呼ぶ。もしエジプトやマレーシアが、パレスチナ人をイスラエルに強制送還したりすれば、猛烈な非難を浴びるだろう。

明らかに宗教弾圧的要素を持つウイグル人迫害が、同じような反応を引き起こさないのはなぜなのか。その答えの1つは、「カネがものをいう」、なのかもしれない。

今や中国は、ほぼ全てのムスリム国家にとって重要な貿易相手国だ。その多くが中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)か、広域経済圏構想「一帯一路」に参加している。中国は南アジアでインフラ投資を進め、東南アジアでパーム油や石炭といった原材料を大量に買い付け、中東諸国にとっては最大の石油輸出先だ。

わずかに期待できる3つの国

ウイグル人の苦境が無視されている背景には、ほかにも残酷な理由がある。例えば、パレスチナの運命は、イスラム教最大の聖地の1つであるエルサレムの運命と直結しているが、ウイグルはイスラム世界の極めて周縁に位置する。多くのイスラム教徒にとって中国は縁が薄い上に、アメリカやイスラエルのように常にその脅威を意識せざるを得ない存在ではない。

中国の空前の情報管理が奏功している側面もある。パレスチナ人やロヒンギャの苦難を知らせる映像やインタビューや記事は、世界中のメディアにあふれている。ところが中国には通信アクセス制限と巨大な検閲体制があるため、極めてクオリティーの低い画像以外、新疆ウイグル自治区の最新の写真や映像はほとんど外に出てこない。

だが、ムスリム国家の沈黙が破られる可能性はある。例えば、ムスリム国家でも民主主義体制を取るマレーシアとインドネシアから、ウイグル支援の声が上がるかもしれない。歴史的・文化的つながりが深く、世界最大の亡命ウイグル人コミュニティーがあるトルコにも期待ができる。実際、09年のウイグル騒乱では、ムスリム国家のリーダーの中で唯一、レジェップ・タイップ・エルドアン大統領(当時は首相)が中国批判の声を上げた。

ただ、権威主義的傾向を強めるトルコは、中国を欧米諸国に対抗する「同志」と見なすようになった。アラブ諸国も中国経済への依存を深めており、中国政府の機嫌を損ねるような言動はしないだろう。中国政府は今年7月、アラブ諸国に計200億ドルの融資を約束したばかりだ。

残念ながら、世界のイスラム教徒がウイグル人のために一致して声を上げる可能性は、小さくなる一方だ。中国が力を増すにつれ、ウイグル人はますます孤立を深めている。

From Foreign Policy Magazine

10/18(木) 19:31配信  Newsweek
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181018-00010006-newsweek-int&;p=1