2018年9月3日 17:39 日本経済新聞
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO34914840T00C18A9910M00

【パリ=白石透冴】欧州に渡る中東・アフリカ系移民の死亡率が、2018年に入って著しく高まっていることが、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の調査でわかった。リビアからの地中海ルートでは19人に1人が死亡するか行方不明になっていた。海上保安当局の監視が厳しくなるなか、以前にも増して危険な渡航が増えていることが背景にあるとみられる。

UNHCRによると、18年1〜7月に流入が多いギリシャ、イタリア、スペインの3カ国に渡った移民の総数は7万2100人で、17年同期の12万1100人から大きく減った。特にイタリア行きの移民が8割以上減った。

イタリアは17年からリビア当局と協力して密航の取り締まりを強めており、一定の効果が出ているとみられる。6月に発足したコンテ内閣は極右「同盟」党首のサルビーニ内相ら反移民を掲げる有力閣僚を抱えており、移民を乗せた救助船の入港を原則拒否している。

一方で、欧州に渡る中で命を落とした人は1600人以上に上り、UNHCRは「死亡率が急激に高まっている」と指摘した。リビアから地中海を通りイタリアに向かうルートでは17年1〜7月には43人に1人が死亡していたが、18年同時期では19人に1人となった。6月だけでみると、8人に1人が死亡した。

リビアの海上保安当局の取り締まりを避けるため、違法業者が危険な気象条件でも移民を乗せた船を出航させていることなどが理由とみられる。強まる取り締まりの中で移民を陸上にとどめておく費用が増えたことで、業者が船の装備をさらに貧弱にしコストを下げていることも背景にある。

一方で、スペインに向かう移民は増加した。1〜7月に同国に入国したのは27600人で、前年同期の2倍以上になった。ギニア、モロッコ、マリなどからの移民が多い。新たに発足した中道左派サンチェス政権は移民受け入れに積極的で、イタリアへの入港を断られた救助船が入っているとみられる。