2018年06月26日
冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
今度は移民を直ちに国外退去、トランプ政権の憲法観に猛反発
https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2018/06/post-1009.php
<不法移民の親子の引き離しはしないという大統領令を出したトランプだが、今度は越境してきた移民を問答無用で
追い返すと言い出した>


ところが、これに対してトランプ大統領とその周囲は、全く問題ないとしています。その背後にある発想法というのは「合衆国憲法に
保障された基本的人権はアメリカ市民だけに適用される」という考え方です。
もちろん、アメリカでも民主党支持者を中心に多数派の考え方は、基本的人権というのは「普遍的なもの」であって、外国人であっても
適用されるという考え方であり、具体的な刑事法制なども、そのようになっています。
この「基本的人権はアメリカ市民にしか適用されない」という考え方ですが、トランプ政権特有のものかというと、決してそうではなく、
共和党の一部の保守派には以前からある発想法です。そこには、アメリカの独立というのは、建国の父たちが「血を流して勝ち取った
もの」というイメージがあり、つまり自分たちの祖先が犠牲を払って獲得したものだから、外国人には与えたくないというのです。
ですが、この発想法がここまで露骨な形で出てきたのは珍しいのです。例えば、2000年代に当時のジョージ・W・ブッシュ政権は、
拘束したアルカイダ関係者など「テロ容疑者」を一般の刑事法廷で裁くことを拒否しました。その際に言われたのは、合衆国に対して
テロ行為を計画するような人間には、合衆国憲法による「専門家による弁護を受ける権利」はない、あるいは権利を与えたくない
というロジックでした。
ブッシュ政権は、そのようなロジックでテロ容疑者を拘束したり、あるいは一般の刑事法廷ではなく軍事法廷で裁いたりしました。
ただ、当時のゴンザレス司法長官などは、「米国領土内では合衆国憲法の効力が及ぶ」つまり「被疑者の基本的人権が保障される」
ので、「そうではない」場所を探したのでした。
そこで浮上したのが、グアンタナモ基地です。この基地のあるグアンタナモ湾というのは、キューバにあります。1898年に起きた
米西戦争でアメリカがスペインに勝利したことで、キューバはスペインの植民地から独立を果たしたのですが、その見返りにアメリカは
このグアンタナモ湾を永久に租借する権利を獲得しました。
キューバ革命の結果1959年に成立したカストロ政権は、この租借には反対していましたが、事実上ずっとアメリカがこの湾を支配して、
そこに軍事基地を設けているのです。ですから、厳密に言うと領土としては「キューバ領」であり、そこをアメリカが「借りているだけ」
ということなので、合衆国憲法の基本的人権を認めなくてもいい、そのような解釈がされたのでした。
一方で、今回はホンジュラスやニカラグアで困窮したり、迫害を受けたりした難民を、一旦合衆国領土に入ったところで「不法入国だ」
と宣言し、直ちに「国外退去」つまり「問答無用の追い返し」をすることになります。ということは、ブッシュ政権が避けようとした
「米国領土内での基本的人権の否定」を堂々とやろうと言うことになるわけです。ですから、この案に関して反対派は猛反発しています。