ドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)の主力戦闘機「ユーロ・ファイター」のほぼ全機に“深刻な問題”が発生し、
戦闘任務に投入できない事態となっている。現地メディアによれば全128機のうち戦闘行動が可能なのはわずか4機とも。
原因は絶望的な予算不足にあり、独メルケル政権は防衛費の増額を約束したが、その有効性は疑問視されるばかり。
ロシアやイランの脅威がちらつくなか、欧州の“盟主”は内憂外患にある。

 ■パーツがない

 ユーロファイターの問題はドイツ週刊誌「シュピーゲル」(電子版)が5月2日に報じた。
同誌によると、トラブルが発生したのはユーロファイターの自己防衛装置。
至近に迫る敵戦闘機を探知するための電子警戒装置を内蔵したポッド(円筒形の容器)を主翼の端に取り付けているのだが、
装置の冷却液が漏れるため、機器を正常に作動させることができないという。
当該部分はユーロファイターの「自己防衛システムの中心」であり、
「この装置なしでの実際の運用はありえない」と同誌は強調する。
ある軍の幹部は「4機ではなく10機だ」と主張しているが、ユーロファイター全128機のうち、
9割以上が戦える状態にないというのだ。

 まるでユーロファイターに欠陥があるかのような惨状だが、実際は異なる。
冷却液の漏れは関連部品の交換で簡単に修理できるものだったが、スペアパーツの数がわずかしかストックできていなかった。
さらにパーツ製造会社の経営者が変わったため、軍の納入業者として再認証が必要となり、
パーツを納入できない状態にあるという。

結局はパーツを豊富にストックしておけばトラブルは防げた可能性が高い。潤沢な整備費と人件費があれば、なおさらだ。

 このトラブルの原因について、同誌は慢性的な防衛費の不足を指摘する。
ユーロファイターのトラブルは、防衛予算不足という問題の「氷山の一角」なのだ。
本欄でもかつてドイツ海軍の潜水艦6隻全てが補修部品不足などのため活動不能になっていることを紹介したが、
同誌によれば空軍のヘリコプターも稼働率が低いため、
パイロットが飛行免許の更新に必要な飛行時間を満たすことができず、免許取り消しと再取得を余儀なくされている。

 それにしても、同誌が「ルフトバッフェの惨状」をなぜこの時期に明らかにしたのか。
そこにはドイツ連邦政府の予算編成との関係がある。

 ■2%と外交

 ドイツの会計年度は1−12月で、春は政府が中期財政計画基準値を閣議決定する時期にあたる。
今年もこの流れに沿い5月2日にオーラフ・ショルツ財務相が2019〜22年の予算計画を公表したのだが、
それに加えて18年度の予算も同日発表した。

 5月に当該年度の予算編成とは異例だが、
17年9月の総選挙でアンゲラ・メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が議席を大幅に減らし、
連立交渉のため半年近く政治空白が埋まれた。結果、この時期まで予算編成がずれ込んだのだ。

 ただ、この中期予算計画基準値と18年度予算は、いずれも決定前からいわくつきだった。

英テレグラフ紙(電子版)によると4月27日にはドナルド・トランプ米大統領が独メルケル首相と会談し、
ドイツがもっと防衛予算を増やすことが「不可欠」だと指摘。
北大西洋条約機構(NATO)加盟国の防衛予算の目標であるGDPの2%を達成すべきだと主張した。

 NATO目標は14年に加盟国間で合意されたが、ドイツの防衛予算の増額は遅々として進まず、
17年度で1・24%(370億ユーロ=約4兆8322億円)と大きな差がある。
英経済誌フィナンシャル・タイムス(電子版)は、
国際通貨基金(IMF)の見通しとしてドイツの18年のGDPを約3兆4千億ユーロ(約444兆400億円)としており、
「その2%は680億ユーロ(約8兆8808億円)で、2015年の防衛予算の2倍にあたる」と指摘する。

 さらに閣内からも防衛費抑制に対する反対論が噴出した。
“吠えた”のはメルケル首相の長年の盟友であるウルズラ・フォン・デア・ライエン国防相だ。

 ライエン国防相は18〜21年度にかけて、120億ユーロ(約1兆5672億円)の防衛費追加を要求。
これは17年度の防衛予算の約3割にあたる額だ。

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画像:ドイツ空軍のユーロファイター戦闘機。
https://www.sankei.com/images/news/180522/wst1805220007-p1.jpg

産経新聞
https://www.sankei.com/west/news/180522/wst1805220007-n3.html