■2016年初頭の底打ち以降、回復を続けてきた原油価格。今後の動きのカギを握るのはトランプ米大統領とイランとシェールオイル

5月6日の米東部夏時間午後11時10分、
アメリカの指標原油であるウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)が
2014年11月以来はじめてバレル当たり70ドルを上回り、70.59ドルの高値をつけた。
これに先立ち、国際的な原油指標の一つである北海ブレントが1月に一時70ドルを突破し
、4月の第2週以降は一貫して70ドル台をつけている。

原油価格は2016年1月半ばに底を打って以降、持続的な回復を遂げている。
だがベネズエラ情勢やイランとの核合意をめぐる新たな懸念が浮上しており、それも帳消しになりかねない。
またWTI原油の価格が北海ブレントよりも低い理由の一つである米国のシェールオイルの生産増も波乱要因だ。

ベネズエラでは、経済危機が一因で政治情勢が悪化しており、石油化学産業に投資する余力がなくなっている。
ベネズエラの原油生産量は、2000年代のピーク時の半分の、日量約150万バレルにまで落ち込んでいる。

■5月12日が制裁解除延期の期限

ベネズエラの国営石油会社PDVSAは米石油大手コノコフィリップスに20億ドルの債務
(ベネズエラ国内の2つの石油プロジェクトが国有化されたことに伴う補償)があり、
これが原因で同社がカリブ海に保有する主要な資産の一部を失って、さらに生産量が減る可能性もある。

実際に5月7日にはコノコフィリップスが、
PDVSAがカリブ海のキュラソー島(オランダ領)に保有する製油所や
タンカーなどの資産の差し押さえに動いていることが明らかになった。

またイランに関しては、アメリカ、ロシア、中国、フランス、イギリスとドイツがイランと結んだ核合意について、
ドナルド・トランプ米大統領が破棄する可能性をちらつかせている。

核合意は2016年1月16日に実施段階に入り、
前日までバレル当たり30ドルを割り込んでいた原油価格は、この日から回復を始めた。

だが米政府は、核合意に基づく対イラン制裁の再開の是非を6カ月ごとに
議会に報告しなければならないことになっており、次の報告期限が5月12日に迫っている。
トランプ大統領は7日、これに関する決定を8日に発表するとツイッターで明らかにした。

トランプが対イラン制裁の再開を決定すれば、イランからの原油輸出量は減少する可能性が高く、
そうなればさらなる価格高騰を招く可能性がある。

だがそうはならないかもしれない。制裁が再開された場合、イランは逆に原油の生産量を増やす可能性もある。

OPECで第3位の産油国であるイランの産油量は、原油価格に大きな影響をもたらす。
イランは、他のOPEC諸国とは違って原油価格の維持は支持しておらず、
同国の石油相はバレル当たり70ドルを大幅に下回るぐらいが好ましいと発言している。

原油価格の上値を抑える可能性があるもう一つの要因が、特にアメリカ国内におけるシェールオイルの生産量増加だ。
米エネルギー情報局は、5月の生産量は日量1100万バレルに近づくと予測している。
これはOPEC一の産油国であるサウジアラビアの生産量を上回り、世界最大の産油国ロシアの生産量に近い水準だ。

8日の米東部時間午前1時の時点で、WTIの取引価格は70.38ドル。北海ブレントは75.67ドルで取引されている。

画像:イランのロウハニ大統領
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ニューズウィーク日本版
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