■各地で大学占拠が頻発したのは、大学入学者の「成績による選別」に反対するためだという。いったいどういうこと?

デモは民主主義の重要な一部だといって日常茶飯事のパリだが、ここ数年、
全身黒づくめで顔も隠した一団があらわれて、機動隊と市街戦をして、手当たり次第に店などぶち壊し、
ついでにデモもぶち壊すようになってしまった。

今年のメーデーでも、労働者のデモがあっという間に乗っ取られた。

黒づくめの集団は、アメリカやドイツでも登場した「Black Blocs」を名乗る正体不明の極左過激集団である。

さて、この3月からフランス各地で学生らによる大学占拠が頻発したが、それとこの「壊し屋」は関係ない。

大学占拠の争点は、マクロン政権の教育改革で新たに作られた「学生の進路と成功法」による、
入学時の選別の導入である。フランスでは「バカロレア」(大学入学資格)があればどの大学、
学部にも入れるのが原則だった。
だが新法では、入学希望者が定員をオーバーした場合、学生の成績によって選別し、
希望のコースに入れなくしようというのだ。

選別は、教育の平等の精神に反すると学生側は主張する。所得や人種で差別されないのと同じく、
成績にも関係なく誰にでもが学ぶ権利があるべきだ、というのだ。

理想論のようにも思えるが、ここには現代社会が抱える問題があるのも事実だ。

■大学は"誰でも"入れた

フランスの高等教育は大学と「グランゼコール」(大学校)の2本立てとなっている。
グランゼコールはもともとナポレオンが国家エリートを養成するためにつくったもので、
民間企業に就職してもいきなり課長クラスから始まる。
バカロレアのあとさらに難関の入学試験があり、高校で成績優秀な者が準備コースか大学を経て入る。

一方、大学には誰でも入れる。日本では、高校卒業と大学入学や職業の資格取得は別物だが、
フランスでは、ただの高校卒業というのは存在せず、何らかの資格を取ることで卒業となる。
バカロレアはその一つで、大学に入れるという資格である。
だから、バカロレア取得者が好きなところに入学できるのは当たり前だ。

昔はそれでよかった。1965年には、バカロレア取得までいく者は同じ世代のわずかに10%だった。
この中には高級官僚や大会社の幹部をめざすグランゼコールや美術学校、
ビジネススクールなど専門学校へ行く人たちもいるから、大学は実学と距離を置いた学問の府、ということで十分だった。

ところが、バカロレア取得者の数はいまや3倍以上に増えた。
グランゼコールや専門学校の定員は増えないから、その人たちが大学になだれこんでくる。

この人たちは、必ずしも学問の探究のために大学に入るわけではない。社会的格差を乗り越えるためだ。
社会の側でも知的労働者に対する需要は増加した。
そこで大学側も、修士コースをMBAに似たものにするなど機構改革を行い、実学の要求に応えるようになった。

それでも、質を確保するためには無制限に学生を受け入れるわけにはいかない。予算の問題もある。
そこに定員オーバーが生じる。公表こそされないがこれまでも、先着順や抽選、成績などによる選別が行われてきた。
それを、今回公然と選別ができるようにしたのである。

だが、成績選別を導入すると、小中学校から勉強に専念できる余裕のある家庭の者が有利になる。
格差の助長にもつながると、学生たちは反発する。
これは現にエリート養成校のグランゼコール入学者に起きており、
進学率の高い名門高校では公立であるにもかかわらず貧乏人や移民の子に対する差別が平然と行われている。

ということで大学占拠が起きたのだが、運動は不発だったと言わざるをえない。

関連ソース画像
https://www.newsweekjapan.jp/stories/assets_c/2018/05/hirooka180502-thumb-720xauto.jpg

ニューズウィーク日本版
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/05/post-10092.php

続く)