日本マンガ学会理事会は、国連子どもの権利委員会が策定した「児童売買、児童搾取および児童ポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書」の履行ガイドライン草案に対し、架空の表現が規制対象に含まれているとして、ガイドラインの見直しを要請するパブリックコメントを3月31日に提出したことを発表した。

 日本マンガ学会が送付したパブリックコメントではまず、本物の子供を虐待や性的搾取から守るための国連の努力を、尊重し支援することを強調している。ただ、国連子どもの権利委員会の草案第61から64段落では、散文を含むすべての架空表現が規制対象で法律で禁止されるべきとされている点を問題視している。

 日本では、1999年に制定された通称「児童ポルノ法」により、芸術的で高い評価を受けている作品であっても関係なく、性的な行為を描いたという理由だけで撤去(のちに取り消し)された事例があるとし、「主に性的な目的」のために使用されていると見なすかどうかの境界は非常に主観的であり明確性を欠いていること、規制の対象が恣意的に決定される可能性があることを、強く懸念していると表明している。

 また、この規制が実際の権利を損なう可能性があるとも指摘。たとえば竹宮惠子氏による『風と木の詩』のような、少年に対する性的暴力だけでなく、少年自身の性的衝動を直接描いた作品が、このガイドラインでは規制対象になり得ると指摘する。

 若者が直面しているセクシャリティの問題を扱うとき性的表現は避けられないが、教育・啓発目的の性的暴力表現とポルノ表現の違いはそれぞれの文脈に大きく依存するため、「明示的な性行為に従事する子供の表現(草案第61段落の “representation of a child engaged in … explicit sexual activities”)」といった定義を単純に適用することには大きな問題があるとする。

 竹宮惠子氏と『風と木の詩』については、イギリスBBCが2016年にインタビューして“The godmother of manga sex in Japan”というやや刺激的なタイトルの記事にしている(日本語版はこちら)が、日本マンガ学会のパブリックコメントではこの記事も参考として挙げている。

 日本マンガ学会は、400名以上の会員を擁する学術団体。会長はマンガ家の竹宮惠子氏。理事は猪俣紀子氏、岩下朋世氏、呉智英氏、ロン・スチュワート氏、西原麻里氏、秦美香子氏、藤本由香里氏、堀あきこ氏、山中千恵氏。パブリックコメントは理事会全員の連名になっている。

 なお、同様のパブリックコメントが、エンターテイメント表現の自由の会(AFEE:Association for Freedom of Entertainment Expression)や、アメリカのコミック弁護基金(CBLDF:Comic Book Legal Defense Fund)からも提出されている。

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