4月10日(水)朝日新聞東京版朝刊社会面 「沖縄」を考える/代執行

作家 池澤夏樹さん(78)   辺野古工事 誰に利が

完成に12年・1兆円 もっと増えるのでは   弱者に負担押しつけ平然 みっともない

いま見ておかなくてはいけない。そんな思いから8年ぶりに辺野古に行きました。国が沖縄県知事の権限を奪う代執行によって、
新たに埋め立て工事を始めてから1カ月後のことです。

その日は雨でした。

基地建設に反対し座り込みをする人たちを、機動隊員が排除していく。そこに1台、また1台とトラックがゲートの中に入っていく。
その様子を見ながら、いったい誰に利がある工事なのかと考えました。

完成まで12年かかるというが、軟弱地盤対策の難工事によって工期はさらに遅れるかもしれない。総工費は3500億円ほどから
1兆円近くになったが、もっと膨らむのではないか。完成のころには、今工事を進めている政治家や官僚は引退し、だれも責任を
とることはない。そもそも完成するかも疑わしい、と私は見ています。

普天間飛行場を東京に持ってきてごらん。滑走路の長さ2700メートルは、JR中野駅から阿佐ヶ谷駅までの距離。中野区や
杉並区で、住宅街や学校の上空をヘリが飛んだらどうか。

私はそんな風にして、ことあるごとに本土を挑発してきました。飛行場と隣り合う普天間第二小学校では現に、着陸する米軍機の
パイロットの横顔が子どもたちからみえるからです。しかし、本土は応えなかった。

2001年の米国同時多発テロのときには「米軍基地が攻撃されるのでは」と、沖縄への修学旅行のキャンセルが相次いだ。でも、
沖縄にも子どもたちがいることは話題にものぼらず、気づいてないに等しかった。

(続く)