>>412
(続き)

3時間かけても「なにか」言いたくなる記事を届けられたのなら記者冥利に尽きる……
なんて思っていた折、先月15日付朝刊、慶応大学教授にして
本社パブリックエディターでもある山本龍彦さんの論考を読んだ。政権を挑発・揶揄
するようなコラムが朝日新聞に載り、「スカッとした」と熱烈に支持する読者が
少なくないことに驚いたとある。これって私のことだよね? スカッと狙いで記事を
書いたことないけど……なんて自問を重ねていても始まらない。ちゃんと話を
聞きたいと取材をお願いした。

人影まばらな大学のキャンパス、談話室の机には、マーカーが引かれた私の記事の
コピーなど大量の資料が広げられていた。

――私は講演などで「スカッとした!で終わらせないで」とお願いしています。挑発や
揶揄は、権力、とりわけ「一強」に対峙する際の貴重な武器だと思います。権力を
斬るというよりは主権者を鼓舞し、あきらめに流されないようにするための武器です。
この国の主権者はもっと怒っていい。もっと自信を持ってほしい――話題をいくつも
脳内に詰め込んできたのだが、山本さんの方から「私の論考が、権力と対峙する記者を
委縮させる効果をもつとしたら本意ではありません」と語り出され、聞き役に回る。
自身の論考に対し読者から、「トーンポリシング(口調の取り締まり)」であり、
結果的に記者の口をふさぐのでは?との指摘があったことを気にされていた。

手書きのリポート用紙4、5枚を繰り、参考文献を示しながら思考の軌跡を解説して
くれる。「ネットでの記事の閲覧数に至上の価値をおくビジネスモデルに新聞社が
取り込まれてしまったらジャーナリズムは終わります」。同感です。なんだ、
問題意識は一緒じゃないですかと笑い合った。

(続く)