5月30日(土)朝日新聞東京版朝刊オピニオン面 (耕論「突然の9月入学騒動」より)

日本大学教授 末冨芳さん   不安利用した拙速な政治

いったい何のために、「9月入学」を導入しようとしたのでしょうか。膨大なコストが
かかるのに、目的もはっきりさせず、政治家たちは暴走してしまいました。コロナ禍の
「火事場」に直面し、グローバル化という言葉に踊らされ、9月にリセットすれば
うまくいく、と思考停止に陥ったとしか思えません。

これまでも政治家は、教育基本法の改正や愛国心の強調など、教育を「国民統合」の
手段として安易に使ってきました。今回も当事者の不安を利用し、現場の意向も顧みず、
「改革」をぶち上げました。大学入試の英語民間試験や記述式試験の導入失敗は記憶に
新しいですが、コロナ禍でも繰り返されたのです。

安倍晋三首相は2月末、専門家に諮らず、全国一斉休校を要請。地域の事情も考慮
されませんでした。子どもの学びを奪うことが、リーダーシップと見せるための道具に
使われたとすれば大問題です。

直近の「9月入学」は見送りの方向ですが、今後の動向も注視する必要があります。
首相はこれをレガシー(遺産)にしようと考えているかもしれませんが、すでに国民を
分断してしまい、実現は難しいのではないでしょうか。

(続く)