2020年7月1日(水) 中日新聞 発言
帰国 富士に感激したが   吉田智泰 大学生 (名古屋市名東区) 22歳

 一年前のことだ。私は一年間の留学を終えて日本に戻る際、日光で神々しく照らされる
富士山を偶然飛行機から見た。「懐かしい故郷だ」。戻ってきたんだという実感が湧いて、
泣きそうになった。

 しかし今になって思い返すと、どこか不思議だ。私にとって日本一の山はこれまでの
人生で遠くから数回見た程度のものだった。そんな山を見ただけで懐かしさを覚えるのは
なぜか。

 おそらくそれは教育のなせる業であろう。あの富士山の形状から瞬時に日本とリンク
させることができるのは幼い頃から家庭や学校で繰り返し「富士山は日本の象徴」と
教わったからに違いない。いわば植え付けられた知識がわが感情を揺さぶるとしたら実に
恐ろしいことだ。日本人なら誰しも母国日本に親しみを寄せることはあるだろうが、それが
過激になると国粋主義にもつながりかねない。

 いま一度冷静になり、自分自身を見つめ直すことが必要だ。私は強くそう思った。