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 同談話は、前年8月14日に発せられた前記藤波官房長官談話において
「政府が表明した見解には何らの変更もない」としつつも、「しかしながら、
靖国神社がいわゆるA級戦犯を合祀していること等もあって、昨年実施した公式参拝は、
過去における我が国の行為により多大の苦痛と損害を蒙った近隣諸国の国民の間に、
そのような我が国の行為に責任を有するA級戦犯に対して礼拝したのではないかとの
批判を生み、ひいては、我が国が様々な機会に表明して来た過般の戦争への反省と
その上に立った平和友好への決意に対する誤解と不信さえ生まれるおそれがある。
それは諸国民との友好増進を念願する我が国の国益にも、そしてまた、戦没者の
究極の願いにも副う所以ではない。」と事実上、藤波官房長官談話の「修正」をした。

 この「修正」は、きわめて示唆に富むものである。すなわち、藤波官房長官談話は、
「中曽根首相の公式参拝ありき」を前提とし、同官房長官の下に、「識者」らによる
「閣僚の靖国神社参拝問題に関する懇談会」を設け、公式参拝を是とする報告書
(但し、8対7の僅差)を提出させ、公式参拝に関する「環境」づくりをしたうえでなされた
ものであり、そこでの議論は専ら、参拝の形式が、憲法の「政教分離原則」に
反するか否かという、「内向き」のものであったのに対し、後藤田官房長官談話は、
アジアに目を向けた「外向き」視点をも併せ持った視野の広いものであった。

 靖国神社参拝については日本の国内問題であり、
それについて、中国、韓国がとやかく言うのは内政干渉だと批判する向きもあるが、
この2つの官房長官談を読み比べた時、靖国問題は、決して国内問題に留まらず、
世界、とりわけアジアの問題でもあるということが理解できる。
日本の侵略戦争に、あるいは植民地支配に苦しめられた中国、韓国が靖国問題について
発言するのは内政干渉でなく、当然なことである。