産経抄 11月17日

 中国はさぞや困っていることだろう。「南シナ海における中国による軍事拠点化と領域拡張は不法で危険だ」。
米国のペンス副大統領は15日、シンガポールでの東アジアサミットで、中国を名指しで糾弾した。ペンス氏は、13日の安倍晋三首相との共同記者会見でも中国に手厳しかった。

 ▼ペンス氏が10月に行った中国政策演説は、「第2次冷戦の到来」とも「事実上の宣戦布告」ともささやかれている。内容は、自由と公正な貿易に背く政策、米国技術の大規模な窃盗の首謀者、借金漬け外交で影響を拡大…と対中批判のそろい踏みである。

 ▼中国は分かりやすい国で、対米関係が悪化すると日本に接近してくる。
安倍首相と習近平国家主席による平成26年11月の初首脳会談時には、習氏は仏頂面で笑顔はなかったが、今年10月26日の会談では満面の笑みを浮かべてこう語ったそうである。「私はすしが大好きだ」。

 ▼この会談に対しては、安倍首相が「競争から協調へ」と述べ、習氏と第三国での経済協力で一致したことなどから、中国に甘すぎるとの指摘が少なくない。特に、対中強硬姿勢を強める米国の不信感を招くのではないかと懸念する声が強い。

 ▼だが、安倍首相自身は周囲に自信を示す。「米国と齟齬(そご)は全くなく、歩調はそろっている。だってペンスが言っていることは、私がこれまで言ってきたこと。
それを米国が実行し始めたということだ」。外交は虚々実々を尽くして戦うものであり、表面に浮かぶ事象だけで判断すべきではないのだろう。

 ▼今回の日露間の平和条約交渉の加速化も、背景に両国が直面する中国の軍事的脅威があるのは間違いない。眼前の2国間関係のみに視野をふさがれず、激動する国際情勢を俯瞰(ふかん)して考えたい。