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(続き)

無数の牙を前に一人闘う男を演じるのは、難しい。「この役は、今まで自分が
やってきたものでは対処しきれない」。罵声を浴び、家に石を投げられても、
そのたびにトマスは新たな道で真実を伝えようとする。
「単に圧力で反発するのではなく、怒りを前進のエネルギーに変えていく。
大声をあげたりするだけでは彼の内面を表現できない」。稽古場で悩みつつ
探求する作業は、舞台を原点と位置づける俳優にとって、楽しみでもある。

堤が強調するのは、この物語が勧善懲悪ではないという点だ。市長という立場に
縛られる兄や、生活を心配する市民……。トマスを責める側にも、それぞれの
言い分がある。

「多数派の結論と真実とのギャップ」は、不変の問題だ。だからこそ「登場人物の
誰かに自分を投影し、当事者として考えてみて欲しい」と堤は話す。私たちが
少数派を「敵」と呼んだり、「敵」と言う言葉に対して「敵」と言い返したりする
ことのないように。

演出ジョナサン・マンビィ。翻訳は広田敦郎。

29日〜12月23日、東京・渋谷のBunkamuraシアターコクーン。
1万500円など。電話03・3477・9999

(終り)