山尾案の問題点

1)交戦権の定義が条文のどこにも無い
そもそも交戦権自体が19世紀の戦争が合法だった時代の遺物であって、現在は存在しない概念である
交戦権を「戦争を行う権利」と解釈した場合、現在の国際法は国権の発動としての戦争を認めていない
山尾が主張する「交戦国が国際法上有する諸々の権利」というのは日本政府(行政府)の解釈に過ぎない
さらに言えば、現在の国際法は戦争に伴う権利としての交戦権を認めていない
現在の国際法は国連憲章第51条にもとづく自衛権か、国連安保理決議にもとづく集団安全保障によって武力行使の合法性を担保している
(このあたりの議論は篠田英朗『ほんとうの憲法』を参照)

山尾案に話を戻すと、交戦権の定義が無いばかりか、「一部の交戦権」の内容が何処までを含んでいるのか不明である
政府解釈に依拠する憲法条項などというものは山尾が批判してきた集団的自衛権の論理と何処が違うのか
政府が恣意的な解釈をしないように縛ることが立憲主義の趣旨だったはずなのに、これでは本末転倒である


2)集団的自衛権を否定する体裁を取りながら、実際は集団的自衛権の容認が可能となっている
山尾案は旧三要件を文言に入れて自衛権を制限すると言いつつ、個別的自衛権に限定する旨を条文に謳っていない
条文だけ見れば集団的自衛権を認めていないのは明白だが、山尾自身は明確に否定しない
したがって「条文では禁止していない」と言いぬけて後から集団的自衛権の行使を容認することもできてしまう