埼玉のこころ 神保光太郎

山良く 水清く 平原はのどかに
麦穂のみのりまたはてなく
街も村もなべて豊かに
ひとは素朴にして埴輪のほほえみ
少女は可憐にして櫻草のおもざし
埼玉 咲き匂う 美わしの土地
(われ この地に住みて三十余年
(ようやくそのこころを知る
混沌と怪異の都会大東京の熱気を
まともにあびて耐えてきた埼玉
いつもおだやかに
いつもうつむき
いつも言葉すくなく
みずからのちからを誇らず
埼玉よ などてかくもいじらしいのか
(きみはきみ自身を知る時である
(きみはもう 単なる一地方ではない
日本の心臓東京砂漠を救うオアシス
あられもない中央文化への第一の批判者
日本の埼玉
世界の埼玉
今こそその美しいおもてをあげて
青空にむかって
この日の歴史的使命を宣言せよ
愛する埼玉
わが埼玉よ

昭和四十一年五月