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「あいかの香り」を育成した藤牧さん(長野市で)

 長野市の藤牧秀夫さん(71)は、30年の歳月をかけておいしさを重視して育成した晩生で大玉のリンゴ「あいかの香り」を自ら生産する。
消費者の声を最優先し、食味にこだわって育成した品種だが、栽培が難しいため、普及面積はわずかにとどまり“幻のリンゴ”ともいわれる。
その分、販売価格が高く、生産者の評価も高い品種だ。視線の先には常に消費者を意識しながら、続く品種の開発も進めている。

 「あいかの香り」は霜降り状の蜜が入り、果汁が多く、強い甘さが特徴。ケネディ前駐日大使が試食し、「I love apple」と言わしめた逸話もある。

 藤牧さんが1972年に「ふじ」の自然交雑実生の種を200粒まいたのが育種のスタート。
当時、有袋栽培が主流だった「ふじ」を省力化して、品質を上げられないかと始めた。種から育った木は、自然環境や病害で淘汰(とうた)されながら、92年に初めて結実。
20ほど残った木から選抜し、98年に品種登録を出願、2001年に登録された。品種名はまな娘の愛佳(あいか)さんにちなんで付けた。

 藤牧さんの信条は「消費者目線の栽培」。
販売先である顧客にサンプルを送り、評価が高い系統を選び抜いた。
「農家は栽培のプロでも消費のプロじゃない。売れる品種は消費者が知っている」と言い切る。

 品種登録直後に市場関係者の目に留まり、全国放送のテレビ番組で「幻のリンゴ」と紹介されるなど、華々しいデビューを飾った。
一方、栽培面積は、農水省の統計で14年時点で8・1ヘクタールにとどまる。

 その理由は栽培の難しさ。樹勢が強く1果が500グラムにもなるが、そのまま育てると着色や食味が悪くなる。
剪定(せんてい)や施肥管理で樹勢を弱め、400グラム程度に抑える必要がある。
時には断根や環状剥皮も施し、徹底して樹勢を抑えるのがポイントだ。

 作りこなせる技術を持つ農家だけが生産しているので、品質が高く、希少性とも相まって軒並み高値で販売されている。
伊那市で同品種を1ヘクタール栽培する、伊藤剛史さん(35)は「うまく作れば大玉で味も見た目も抜群。リピーターも多くブランド化しやすい」と絶賛する。

 藤牧さんは来年、「あいかの香り」を親にした2品種の登録出願を計画する。
赤と黄色の2系統で、中生種では珍しい蜜が多く入る特徴がある。もちろん、消費者の評価も確認済みだ。


リンゴ「あいかの香り」 長野市・藤牧秀夫さん 消費者の声 基に育種 味追求し30年「2世」誕生へ
日本農業新聞:2017年11月20日